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北米不動産の2021年最新版トレンド・レポートを読み解く− Vol.5「小売業の大転換期」

Highlights

  • PwCとULIが共同発行する北米不動産市場トレンド・レポートの内容を紹介
  • 第5回のテーマは「小売業の大転換期」について
  • 新型コロナウイルスの煽りをもろに受け、小売業と関連する不動産市場は大きな変化を迎えつつある

新型コロナウイルスの逆風が直撃した小売業向け物件

ロンドンを本拠地とする世界最大級のコンサルティングファーム「PricewaterhouseCoopers(PwC)」と不動産・土地利用の専門家集団「Urban Land Institute(ULI)」が毎年発表している、北米不動産市場のトレンド・レポート「Emerging Trends in Real Estate(※1)」。

このレポート内から、アメリカ不動産投資の参考になるような情報をピックアップしてご紹介するシリーズの第5回。今回、取り上げるテーマは「小売業の大転換期」です。

小売業向け物件は、 商業施設の主要6部門(オフィス、小売、工業用地、集合住宅、ホテル、特殊用途物件)の成長性格付けで、4年連続最下位となるなど厳しい状況に置かれていました。さらなる逆風のように、新型コロナウイルスの影響を受けている小売業向け物件ですが、具体的に今、どのような局面を迎えているのでしょうか。

 

今後数年の間に、小売業の大転換期が到来する?

ある世界的証券会社のリテールリサーチ部門責任者は「実店舗の重要性は依然として変わらない」とリサーチの中で述べます。前提としてこうした認識は、小売業界でも広く共有されていると考えてもよさそうです。

新型コロナウイルス感染拡大を経た今でも、人々は商品やサービスの大部分を実店舗で購入しており、今後、通常の生活が再開できれば、多くの店舗やショッピングセンターに人手が戻ってくることが予想されます。あるREITアナリストは「私たちはまだ、広い売り場を必要としている」と述べます。

一方、閉店に追い込まれる小売店舗も数え切れないほど存在するのも事実で、ショッピングセンターなどの維持に頭を悩ませるオーナーも増えています。こうした状況を受けて、「今後数年は、“小売業の大転換期”になることが予想される」とレポートは説明します。

実際、小売業が直面している課題は数多く存在しています。時代遅れだったり、構想が不十分だったりする売り場の数々。多くのブランドの疲弊、国民所得の伸び悩みや、消費者の購買嗜好の変化……。これらに加えて、Eコマースが飛躍的にシェアを伸ばしていることも、目下の大きな課題だと言えるでしょう。

 

小売業にまつわる施設タイプ別の概況

次に、レポートが伝える施設タイプ別の分析を見てみます。

▼ショッピングセンター
ショッピングセンターは不動産市場において、もともと伸び悩んでいましたが、コロナ禍によりその傾向にさらに拍車がかかっています。物件の取り壊しを余儀なくされたり、空きスペースを小売業以外の用途に転用したりするオーナーも増えているようです。

▼百貨店
百貨店も、同じく苦戦を強いられています。百貨店の売上高は2000年にピークを迎えて以来、40%減少。特に、中価格帯の歴史あるブランドが軒並み苦戦しており、店舗の閉鎖が相次いでいます。

▼ショッピングモール内の店舗
ショッピングモールに入店するアパレルやアクセサリーショップも苦戦。成長著しいディスカウントストア、ファストファッション、オンライン小売業者の勢いに押され、店舗閉鎖や廃業が増加しています。

▼レストラン/エンターテインメント施設
レストランやエンターテイメント施設は、コロナ禍の影響をとりわけ強く受けている分野です。特に人との接触が前提となる業種は、政府による営業時間の制限や、消費者の行動変容によって、収益が大幅に減少しています。

小売業の不調は上に挙げたような業種だけに留まらず、食料品店やドラッグストア、ホームセンターといったいくつかの業種を除いて、ほとんどの業種がシェアを減らしている厳しい状況です。

 

小売業の危機的状況には“格差”も生まれている

小売業は「小規模店舗」の割合が高く、そのほとんどが資本力の弱い零細企業でもあるため、長期的な収益減少に耐えられない傾向があります。その多くが政府のパンデミック支援プログラムを利用することもできず、従業員や業者に支払う資金さえも不足している状況にあります。一時休業している店舗の多くが、そのまま廃業してしまうことも予想されるでしょう。その結果、物件オーナーも膨大な空き物件を抱えてしまうことになります。

やや規模の大きな中小企業の経営破綻率は、さらなる経過観察が必要ですが、今後20%を超えるであろうという厳しい見通しもあります。また、これまで発表された大規模チェーン店の閉店や倒産によって、すでに数億平方フィートに及ぶ空きスペースが生まれていますが、さらに10億平方フィートが追加される可能性がある、とレポートは伝えます。

このような危機的状況には“格差”も生まれています。これまでの小売店舗運営においては、最も強く人気のあるブランドが、最も良い場所に陣取っていたわけではありませんでした。しかし、パンデミック不況の影響で賃料がリセットされ、スペース稼働率もほぼすべての場所で上昇している中、トップブランドはそうした状況を逆手に取り、立地のアップグレードなどの手を売っています。

いずれにせよ、小売業がこれから大きな転換期を迎えるであろうことは、間違いありません。「“Change brings Opportunity(変化は機会をもたらす)”という格言が、今まさに現実のものになろうとしている」と最後にレポートは結んでいます。

(※1)
https://www.pwc.com/us/en/asset-management/real-estate/assets/pwc-emerging-trends-in-real-estate-2021.pdf

 

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