Highlights
- PwCとULIが共同発行する北米不動産市場トレンド・レポートの内容を紹介
- 最終回となる第6回のテーマは「低価格住宅の危機」について
- 低所得層をターゲットにした低価格住宅が今、厳しい状況下に置かれている
アメリカの低価格住宅に訪れている“危機”とは?
ロンドンを本拠地とする世界最大級のコンサルティングファーム「PricewaterhouseCoopers(PwC)」と不動産・土地利用の専門家集団「Urban Land Institute(ULI)」が毎年発表している、北米不動産市場のトレンド・レポート「Emerging Trends in Real Estate(※1)」。
このレポート内から、アメリカ不動産投資の参考になるような情報をピックアップしてご紹介するシリーズの第6回。最終回となる今回のテーマは「低価格住宅の危機」です。
低所得層の住環境をどのように整えていくか。これはすべての国にとって重要な課題です。アメリカはもともと国民の経済的格差が大きいと言われる国ですが、コロナ禍を経て今、その格差はより広がりつつあります。そうした背景を受けて、ますます需要が増えていくかに思われる低価格住宅ですが、そこに一体どのような危機が訪れているのでしょうか?
コロナ禍以前から、低中所得層は住宅費用を負担に感じていた?
ハーバード大学の住宅研究合同センターは、新型コロナウイルス流行以前の2019年時点で「住宅費用の負担を重く感じる人の数と割合が再び増えつつあり、特に中所得世帯の間でその傾向が顕著である」と報告していました。
リーマンショック以降の10年間、雇用は増えつつあり、所得も上昇傾向、また新築アパートの供給も増加傾向にありました。こうした事実を踏まえると、住宅費用の負担を重く感じる人は少なくなりそうなものですが、実際にはその逆であることをレポートは伝えています。
その大きな理由としては、以下の2つが考えられます。1つは、低・中所得層の所得額がアメリカ全体の平均所得額よりも伸び悩んでいること。もう1つが、賃貸住宅の新規供給が主に高所得の「renter by choice(持ち家に住むことも可能だが、あえて賃貸を選んでいる人)」をターゲットにしていることです。
低所得層の多くが、自分たちの所得に比べて高コストで、質が低い賃貸住宅に住むことを余儀なくされています。そしてそのことが、低所得層の健康状態の悪化、平均寿命の低下、教育水準の低下、所得のさらなる低下など、多数の社会的課題にもつながっている、とレポートは指摘します。
家賃未払いや立ち退きなど、今後さまざまな課題が表出する可能性も?
新型コロナウイルスの世界的流行によって、アメリカでも大量の雇用が失われました。多くのレジャー、接客業、小売業などでレイオフが発生しましたが、そこで雇い止められたのは高給取りの従業員ではなく、低・中所得者層が中心でした。
今はまだ、政府が打ち出した給与保護プログラム(PPP)や失業保険プログラムの拡大によって、その影響は大きく表面化していません。賃貸物件の家主の2020年8月までの家賃回収率が90%を超えているという前向きな報告もあります。しかし、これらの救済措置が打ち切られたり終了したりした途端、家賃の未払いが急増する可能性は十分に考えられます。
国が設定した立ち退き猶予の期間が終了すると、家賃未払い者の強制立ち退きとホームレス化の波が一気に押し寄せてくることが予想されます。バイデン新大統領は2021年1月31日までだった立ち退き猶予の期限を3月31日まで延長しましたが、その期限も迫っており、不安を抱える居住者も多いようです。強制立ち退きが実行されると、2020年に表出したさまざまな社会的不安を促進する可能性もあり、人道的な面でも大きな問題となる可能性があります。
そうした影響は借りる側だけではなく、貸す側(賃借人)にも及ぶことが予想されます。低価格物件のオーナーが家賃回収できず、住宅ローンを支払えなくなった場合、強制的な差し押さえが執行される可能性があります。そうなった場合、貸し出される低価格物件の数はさらに減少し、負のスパイラルに陥る可能性もあるでしょう。
こうしたことが「低価格住宅の危機」としてレポートでは指摘されており、アメリカの低価格住宅はなかなか厳しい状況下にあることが伺えます。バイデン政権が今後どのような支援策を打ち出すかについても、注目しておく必要がありそうです。
(※1)
https://www.pwc.com/us/en/asset-management/real-estate/assets/pwc-emerging-trends-in-real-estate-2021.pdf
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