1.手続きの迅速化、規制見直し、金融制度更新など幅広い施策が盛り込まれた大型法案
米国で住宅供給の拡大を目指す超党派法案「21st Century ROAD to Housing Act」が6月下旬、上下両院で可決され、ホワイトハウスへ送付されました。法案には、住宅開発に関する手続きの迅速化や規制の見直し、製造住宅(プレハブ住宅)の普及促進、集合住宅向け金融制度の更新に加え、機関投資家による一戸建て住宅の購入を制限する条項が盛り込まれています。この投資家規制は、モーゲージ業界や住宅関係者の間で法案の目玉として最も注目されている部分であり、大手機関投資家が特定地域で一戸建て賃貸市場を寡占する動きに歯止めをかける狙いがあります。
背景には、長年にわたって深刻化してきた米国の住宅不足があります。パンデミック以降は建設コストや住宅ローン金利の上昇、既存住宅の流通停滞などが重なり、住宅価格や家賃は高止まりが続いています。住宅不足の規模については複数の推計がありますが、数百万戸規模に達するとされており、住宅の取得や賃貸が家計を圧迫する状況が社会問題となっています。
こうした事情から、住宅政策は民主・共和両党に共通する重要課題となり、今回の法案は85対5で上院を、358対32で下院を通過しました。
一方で、法案の行方には不透明感が残っています。トランプ大統領は署名式典を直前で中止し、自身が推進する選挙制度改革法案「SAVE America Act」が可決されるまでは署名しないと表明しました。同法案は民主党の反対で上院を通過する見通しが立っておらず、トランプ氏はこの住宅法案を人質に取る形で圧力をかけている格好です。もっとも、米国憲法の規定では、大統領が署名も拒否権発動もしないまま議会開会中に10日が経過すれば、法案は自動的に成立します。現在は議会の休会時期と重なっており、完全休会となればポケット拒否権が成立し得るかどうかという技術的な論点も浮上していますが、いずれにせよ超党派の圧倒的多数で可決された経緯から、大統領が拒否権を発動しても議会が再可決(オーバーライド)できる可能性が高いとみられています。
2. 「住宅購入を支援する政策」から「住宅そのものを増やす政策」へ
今回の動きで注目すべきなのは、米国の住宅政策が「住宅購入を支援する政策」から「住宅そのものを増やす政策」へと重心を移しつつある点です。
住宅価格や家賃の高騰が続くなか、金融支援や税制優遇だけでは問題を解決できないという認識が広がり、供給制約そのものを緩和しようとする方向性が鮮明になっています。実際、近年は各州や自治体でも、ADU(Accessory Dwelling Unit:付属住宅)の建設促進や用途地域規制の見直し、住宅建設の許認可手続きの簡素化など、供給拡大を意識した政策が相次いでいます。
もちろん、今回の法案だけで数百万戸規模とされる住宅不足が短期間で解消される可能性は高くありません。しかし、連邦政府が住宅供給の拡大を政策課題として明確に位置付けた意義は小さくなく、今後も同様の制度改革が各地へ広がる可能性があります。
日本から米国不動産市場を見ている投資家にとっても、住宅価格の上昇だけを前提とする時代から、地域ごとの供給力や規制改革の進展が資産価値を左右する時代へ移行しつつあることを示すニュースとして注目すべきでしょう。
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