【この記事のポイント(Insights)】
- ChatGPTの登場を受け、不動産業界を含むあらゆる産業でAIの利用が活発化している。
- そんななか、イーロン・マスクら著名人が、AIの学習の一時停止を求める署名に賛同。
- 署名はAIの持つ強大な影響力の証明であり、逆風ではなくむしろ追い風かもしれない。
ChatGPTの登場で大衆に浸透しはじめたAIテクノロジー
長きに渡りビジネスイノベーションの中心的トピックであり続けて来たAI(人工知能)。とはいえ、少し前までは高い技術力を持った専門家だけが使えるものという印象が持たれていましたが、昨年11月末にOpenAIが発表した自然言語で利用できるChatGPTの登場により、特別な知識を保たない人も含め、多くの人がその恩恵を受けるようになりました。
不動産業界でも、AIを活用した物件データベース構築サービスを提供するバルセロナのスタートアップ企業Restb.ai社が、物件説明文を数秒で自動生成する技術を発表するなど、利活用が進んでいます。
そんな中、米Time誌がトレンドに逆行するかのようなニュースが報じ、注目を集めました。そのニュースとは、数百名から先名にもおよぶテック業界の著名人たちが、人工知能研究所に対し、機械学習を6ヶ月間停止するように求める署名にサインしたというものです。
学習停止要求の理由は、"強大な影響力”
この署名が注目を浴びた理由の1つが、署名者のなかにイーロン・マスクが含まれていたことです。TeslaやSpaceX、TwitterのCEOであるイーロン・マスクは、ChatGPIを開発したOpenAIの創業メンバーの1人として知られます。その後2018年にOpenAIの役員を辞しましたが、その後もTesla車両への自動運転機能の搭載を推進するなど、AI推進派の代表的人物として振る舞ってきました。そんな彼が、AIの進化を止めるかのような発言をしたことが世間を驚かせたのです。
署名を行ったのは、先端テクノロジーに秘められたリスクをコントロールすることを目的とする非営利団体、Future of Life Institute。署名は同団体のWebサイト上でオープンレターとして公開されています。
“人間と競合する知性を備えた AI システムは、社会と人類に重大なリスクをもたらす可能性がある。”という一文からはじまる書簡は、英文で4,000文字近いボリューム。
太字部分だけを引用すると、“強大な影響力を持つAIシステムは、その前向きな効果があり、かつリスクが管理可能であると確信できた場合にのみ開発されるべきだ。””すべての AIラボに対して、GPT-4以上の影響力を持つ AIシステムのトレーニングを直ちに停止し、少なくとも6か月の間は一時停止し続けるよう求める。”とあり、功罪の評価が定まり切らないなかで開発を進めることへの警鐘が鳴らされています。
署名は日本時間4/3時点で3,000名を超えており、そのなかにはイーロン・マスクのほか、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、『サピエンス全史』の著者であるユヴァル・ノア・ハラをはじめ、ビジネスおよびアカデミアの著名人たち約1,000人が名を連ねています。ただし、署名が本人のものであるかどうかは、第三者による裏取りが行われていません。
「バイオテクノロジー」「核兵器」「気候変動」に並ぶインパクト
ただし、この署名がAI活用にマイナスの影響を及ぼすと考えるのは早合点と言えます。書簡の内容はむしろ、AIの可能性の大きさを裏付ける言葉が並んでいます。一人の人間の人生にとって、あるいは人類という種にとって、与えうる影響が非常に大きいため安全な使い方を検討する必要があるという主張は、裏返せば人々に多大な恩恵をもたらす可能性もあるとも取れます。
1つのテクノロジーの開発を巡って、これほど活発な議論が巻き起こるのは稀なことです。ほかに同様のレベルで議論されるテクノロジーは、Future of Life Institute が4つの重点分野としてAIと並べて挙げる「バイオテクノロジー」「核兵器」「気候変動」くらいのものではないでしょうか? これら3分野はいずれも巨大な産業分野でもあることを考えると、AIのビジネス・ポテンシャルは計り知れません。
今や、必要としない産業はないとまで言われるAI。安全性については十分な注意が必要なことは事実ですが、警戒しすぎて取り残されてしまうのもリスクです。程よい距離でキャッチアップしていきたいものですね。
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