Highlights
- アメリカで重症化とは異なる「Long COVID」という症状に注目が集まっている
- さまざまな症状や身体の機能低下が慢性的に続くのが特徴
- 新型コロナウイルスの対策緩和を時期尚早と見る専門家も
EUがロシア産原油の禁輸措置を発表する一方で……
依然としてウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの経済制裁として、EUがロシア産原油の輸入禁止措置を取ることを発表。2022年末までにロシア産原油の9割を禁輸する方針を明らかにしました。
EUに先駆けて、すでにアメリカはロシア産原油・天然ガスの輸入禁止措置に踏み出しており、ロシアに対する西側諸国の経済制裁はより強固なものになりつつあります。
しかしその一方、中国とインドのロシア産原油の購入量が増大している動きもあり、欧米を越える最大の買い手として急速に存在感を強めています。エネルギー需給分析システムを提供する英・Vortexa社による推算では、2022年5月に中国がロシアから海上輸入した石油は110万バレル/日(bpd)で、2022年第1四半期の75万バレル/日、2021年平均の80万バレル/日と比較して大幅に増加(※1)。また、米・Refinitiv社が提供する金融データ分析ツール「Eikon」によるとインドのロシア産原油輸入量が昨年比で3倍に伸びているというデータも(※2)。
こうした事態に、アメリカをはじめとする西側諸国は警戒を強めています。中国とインドがロシア産原油の買い手として存在感を強めることは、世界の政治・経済にどのような影響やリスクを及ぼすのでしょうか? 大きく3つのリスクから考えてみます。
リスク1:経済制裁の骨抜き化
もっとも分かりやすいリスクとして考えられるのは、ロシアへの経済制裁効果が希薄化してしまうこと。
EU全体がロシアから輸入していた原油は、金額ベースで1日あたり10億ドルほどだと言われており、この9割が禁輸となれば単純計算で年間3000億ドルを超える損失をロシアは被ることになります。ロシアの2020年の名目GDPは約1兆4785億ドルと言われており、3000億ドルといえば、その約20%を占める無視できない数字です。
EUが今回、ロシア産原油の禁止措置を取ったことは、本来ならばロシアにとって大きな痛手となるはずですが、その損失分を中国とインドへの輸出分である程度カバーできてしまえば、制裁効果は薄まってしまいます。
もちろん、中国・インド以外に大きな買い手がいなければ、ロシアは原油額を通常よりディスカウントせざるを得なくなりますが、それでも売上を完全に失ったり、油田封鎖に大きなコストを払ったりすることに比べれば、ダメージは微々たるものだと言えるでしょう。
まだしばらくは楽観視し過ぎるのは禁物か?
Long Covidの発症率は、ワクチンを接種している場合は3%程度まで抑えられるという報告もあります。そうしたことを考慮したとしても、行動制限の撤廃や脱マスクといった対策緩和に警鐘を鳴らす専門家も存在するようです。
例えば、ペンシルバニア大学教授で医療倫理学者のエゼキエル・J・エマニュエル氏は、ワシントンポストに寄稿したコラムで脱マスクは時期尚早であることを訴えています(※1)。エマニュエル氏の論によると、毎年交通事故で亡くなる人の割合は約16,000人に1人。それに対しLong COVIDの発症率を感染者の3%とするなら確率は33人に1人。この数字は決して楽観視できるものではない、というものです。
“感染者の3%”という数字を多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれの判断によるかもしれませんが、重症化と違ってすぐに生死に直結するような問題ではないため、「その程度のリスクは許容範囲内」と考える人も多いかもしれません。とはいえ、思考能力や身体パフォーマンスの明確な不調を抱えながら、何ヶ月も日常生活を送るのは辛いものでもあります。なおかつ、それがいつまで続くかはっきりと分からず、明確な治療法も確立されていない状況では、不安も大きなものとなるでしょう。
こうしたことを鑑みるに、一部の専門家が述べるよう、まだしばらくの間は新型コロナウイルスを楽観視しすぎるのは禁物かもしれません。
リスク2:石油ロンダリング
2つめのリスクとして考えられるのが、石油ロンダリングです。
これは中国・インドへロシアから輸入された原油が、必ずしも両国内で消費されるとは限らないことを意味します。つまり、ロシアから輸入された原油が、ガソリンやガス、軽油などに精製され、第三国へ輸出される可能性があるということです。
そのようにして輸出された製品を、購入国側が「ロシア由来の原油からつくられた製品か」正確に見抜くことは非常に難しいと言えるでしょう。こうしてロシア産の“禁輸品”である原油が、中国およびインド産の“問題のない品”に洗浄(ロンダリング)され、世界に流通することになります。
これを防ぐ措置として「ロシア産の原油からつくられた可能性がわずかでもある製品は一切買わない」ということも考えられますが、各国が資源入手に苦心している現在、そこまでの強硬策を現実的に取れる国はそう多くはないでしょう。
中国・インドは通常の国際水準より安い価格で大量に原油を仕入れることができていると考えられるため、たとえ石油製品を低価格で輸出したとしても、十分な利益を確保できる可能性は高いでしょう。これは両国が市場を大きくかき乱しうるカードを手にしているということでもあり、世界経済に大きな影響を与えるリスク要因とも捉えることができます。
リスク3:大国間のパワーバランスへの影響
3つ目のリスクとして考えられるのが、大国間のパワーバランスへの影響です。
ロシア、中国、インドは、人口や経済、軍事力といった点を見ても世界有数の大国です。これらの大国がより接近することで、従来の大国間のパワーバランスに大きな変動が生じることも考えられます。
ロシア・中国は同盟関係にあるわけではなく、現在の関係性はそこまで良好ではないと見る向きもありますが、中国もまたロシアと同じくNATOの東方拡大には強い警戒感を抱いており、2001年にロシアや中央アジアの国々と上海協力機構を設立。表向きは経済や文化の面で協力を図る組織とされていますが、実際はテロ対策などを名目に共同軍事演習を度々実施するなど、軍事的な意味合いも少なからず読み取れます。さらにインドも、この上海協力機構のオブザーバーを2005年から務めており、2015年には正式加入を果たしました。
このように正式な同盟こそ結んではいないものの、中・露・印の関係にはかねてから密接なものがあり、特に現在、国際的に孤立するロシアからすれば、中国・インドの存在感はさらに大きなものになりつつあると言えるでしょう。
三国の今後の関係性によっては、アメリカを始めとする西側諸国とのより深刻な対立関係に発展する可能性も考えられます。いずれにせよ、ロシア、中国、インドの今後の関係性には注視しておく必要がありそうです。
(※1)REUTERS,“Exclusive: China quietly increases purchases of low-priced Russian oil”2022-5-20. https://www.reuters.com/business/energy/exclusive-china-quietly-increases-purchases-low-priced-russian-oil-2022-05-20/
(※2)POLITICO,“6 things to know about the EU’s Russian oil ban”2022-5-31. https://www.politico.eu/article/6-things-know-eu-russia-oil-ban/
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