【この記事のポイント(Insights)】
- 例年であれば秋口に下がるアメリカのガソリン価格が、9月3週目に入っても上昇している。
- 過去、ガソリン価格高騰と大不況が同時に発生した記憶から、ガソリン高にトラウマ意識を持つアメリカ人は多い
- 経済専門家たちは、需要と供給を材料に、今回の高騰はそれほど心配すべきでないと指摘。
例年秋口に下がるガソリン価格が今年は高騰。
AAA(American Automobile Association:アメリカ自動車協会)によると2023年9月18日のレギュラーガソリンの全米平均価格は1ガロン当たり3.88ドルに達し、22年10月以来の高値を記録しました。ガソリン価格はこの1週間だけで1ガロン当たり5 セント上昇したことになります。
通常、長距離ドライブが増える夏がガソリン価格のピークで、レーバーデー(労働者の日。9月の第一月曜日で法定休日)以降は価格が落ち着くとされています。ところが今年は、サウジアラビアとロシアによる原油供給の削減や、産油国リビアの大規模な洪水被害の影響で原油価格が安定せず、例年とは逆の値動きを見せています。
インフレのペースは落ち着きつつあるとは言え、庶民は物価高に苦しんでいる状況だけに、ガソリン高騰は家計に大きなダメージを与えます。また、多くのアメリカ人にとってはガソリン価格高騰は単なる手痛い支出の1つに留まらず、暗い未来を想起させる前兆でもあります。
過去3度の大不況が、ガソリン高騰と同時に発生
というのも、アメリカが過去に見舞われた大不況の多くが、ガソリン高騰と同時期に発生したからです。
1973年に勃発した第四次中東戦争の影響で原油価格が高騰、第一次オイルショックが起こりました。イスラエル支援国であったアメリカはOAPEC諸国から石油禁輸の制裁措置を受けるなど、特に大きな影響を受けました。
貿易収支が急速に悪化し大幅な赤字になるとともに、輸入インフレによる物価高で消費が減少。また当時は自動車産業がアメリカの中心産業の1つでしたが、ガソリンが高騰するなか燃費の悪いアメリカ車の売上も低迷しました。
さらに1979年のイラン革命によりイランの石油生産が中断し、原油供給がさらに減少。第二次オイルショックが発生し、再び物価高と消費減が世界の国々を襲い、景気を後退させました。もちろんガソリン価格も少々しました。
第一次オイルショックで得た教訓から各国が対策の準備が取れていたこと、アメリカのベビーブーム世代の住宅需要により消費が喚起されたことで経済ダメージは小さく抑えられたものの、短期間に二度続いた不況はアメリカの人々の記憶に深く刻まれました。
そしてリーマンショックが起こった2008年は、ガソリン価格が過去最高値に達していた年でした。このときの高騰は、サブプライムローン問題が発覚したことで投機資金の一部が原油投資へ流入したこと、中国・インドの経済成長によるエネルギー需要増、ハリケーンによるメキシコ湾岸油田の生産停止、イラク戦争の勃発など国際情勢の悪化など様々な要因が絡んで起こったもので、不況とは直接的には関係がありません。
しかし、史上最高値のガソリン価格のインパクトは大きく、同時期に起こった不況とセットで思い出されるようになったのです。
国内供給が伸び、需要は鈍化。ガソリン高は続かない?
そうした背景を考えると、現在のガソリン高に対し恐れを抱くアメリカ人がいることは自然なことでしょう。しかし、専門家たちは、需要と供給の観点から、このガソリン高はそう長くは続かないと考えているようです。
まず供給に目を向けると、アメリカには自国で原油を生産できる能力があり、その生産量を年々伸ばしているという事実があります。23年は、過去最高の日量340万バレルを輸出しており、反対に過去最低となった輸入量(日量110万バレル)を上回る純輸出国となりました。輸出量は備蓄分放出も含めた数字であり、国内消費量が日量2,000万バレルに対し、生産は日量1,300万バレルとまだ不足している状況ではありますが、増産ペースを考えれば、自給率100%以上も不可能ではありません。
一方、需要に目を向けると、中国の失速をはじめ世界経済の成長は鈍化しており、エネルギーの消費ペースの伸びも緩まると考えられます。また、ヨーロッパ諸国を中心にグリーンエネルギーへの移行も進んでいるため、エネルギー消費に占める原油のシェアは小さくなっていくでしょう。
供給(それも自国内供給)が増え、需要が伸びにくい状況を考えると、ガソリン価格はどこかで落ち着くだろうというのが専門家たちの見立てです。ガソリン高騰から不況へとつながらるトラウマルートか、価格が徐々に落ち着く軟着陸ルートか、願わくば後者の道を辿ってほしいものです。
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