【この記事のポイント(Insights)】
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「Z世代の民主党離れ」という言葉がしばしば聞かれるが、これは不正確な表現で、エリート層をはじめ民主党支持を維持する若者も多い。
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一方で、労働者階級の人々の多くが民主党に失望し、トランプ氏や共和党の「アメリカ第一」の政策に惹かれてシフトしている傾向がある。
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若者世代は労働者の比率が高いため、「Z世代の民主党離れ」のように見えるだけで、実態は「労働者の民主党離れ」に過ぎない。
2024年の大統領選は開票直後はトランプ氏の圧勝と報じられました。しかし、その結果を改めて分析すると、今回の結果はトランプ氏の支持が拡大したわけではなく、民主党が支持を落としたことによるものだったようです。この事実は得票率の前回比からも明らかで、トランプ氏の得票数はわずか約0.6%伸びただけであったのに対し、ハリス氏の得票数は前回のバイデン氏よりも約12.7%も減少しました。
そんな「民主党離れ」とも言える状況の原因を考えるうえで、しばしば聞かれるのが「Z世代の民主党離れ」という言葉です。実際、若年層全体の支持傾向は民主党から共和党へシフトしつつあるのですが、この言葉を鵜呑みにするのは少々危険です。本記事では、若者たちは本当に民主党から離れつつあるのかを考察します。
若年層でも、エリート層の民主党支持は揺らいでいない
「Z世代の民主党離れ」が疑わしいのは、世代全体が共和党支持へシフトしているわけではないからです。Z世代の中でも特に高等教育を受けたエリート層は、民主党の支持を維持している傾向が見られます。彼らはLGBTQ+の権利や気候変動対策などに強い関心を抱いています。「性別は2つ」「温暖化対策は詐欺」と言い放つトランプ氏とは真逆の考え方を持っていると言えます。
民主党の対応にも満足はしてはないでしょうが、かといって共和党支持に傾くことはまずありません。エリート層の若者にとっては、共和党の保守的な立場よりも、民主党の進歩的な立場のほうが魅力的だと考えられています。
しかし、世代全体では共和党支持にシフトしているのは事実です。エリート層が民主党支持を維持するなら、どんな若者が民主党から離れているのでしょうか? そこで考えたいのが、もう1つのトレンドである「労働者の民主党離れ」です。
民主党に失望する労働者たち
労働者階級の支持基盤は大きく動いています。もともと労働者たちは、民主党の強固な支持基盤でした。社会保障や最低賃金引き上げといった民主党の政策が、労働者たちの生活向上に寄与したからです。
しかし、近年この層が共和党支持へとシフトしています。民主党が掲げる経済政策が十分な効果を発揮していないと感じており、トランプ氏や共和党の国内重視の政策に惹かれているためです。彼らは「アメリカ第一」を掲げ、移民排除的な政策を推し進める共和党の姿勢に希望を見出しました。2016年のトランプ氏勝利時には、白人労働者がまずシフトしました。そして今回、自身も移民にルーツを持つヒスパニック系も共和党を支持する傾向が見られたと言います。職の奪い合いは同じ階層内で起こるため、移民が増えて失職する可能性が高いのは同じく移民である自分たちであるという意識から、新たな移民受け入れを拒んでいるのです。
若年層ほど、労働者の比率が高い
労働者階級はすべての世代に存在しますが、その比率は若年層ほど高い傾向にあります。これは、若者がまだ職業経験を積む途中にあり、社会的地位や財産を築き上げる過程にあるからです。実際、労働者階級はZ世代の約35%を占めており、この層が支持する政党の動向が世代全体の傾向に大きな影響を与えます。このことから、「Z世代の民主党離れ」が指摘される背景には、労働者階級の動向が重要な役割を果たしていることがわかります。
分断が進む時代に、世代で思想傾向を分析するのはナンセンスかもしれない
ここまでの分析から、「Z世代の民主党離れ」とは、実際には「労働者の民主党離れ」の一部に過ぎないことが分かります。Z世代全体が一様に民主党から離れているわけではなく、多数派である労働者階級が共和党へとシフトしているだけなのです。労働者階級の民主党離れはZ世代に限定された現象ではなく、他の世代にも共通して見られます。
ジェネレーションギャップよりも個人間のイデオロギーギャップのほうが大きくなっている現代において、世代を軸にして政治的な分析を行うことの意味が薄れつつあります。むしろ、個々の経済状況や社会的背景による分断こそが、現代の政治を理解する鍵を握っているのかもしれません。
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