【この記事のポイント(Insights)】
- トランプ政権が掲げる大型減税法案が下院を辛くも通過し、米経済政策の転換点となる可能性がある。
- 減税は中間層支援を謳う一方で、富裕層への恩恵が大きく、財政赤字や格差拡大の懸念も根強い。
- 上院での修正や政治的駆け引きを経て成立すれば、2026年以降の政局と経済に長期的影響を及ぼす。
2025年5月、トランプ政権が「One Big, Beautiful Bill(ひとつの大きく美しい法案)」と名付けた大型減税法案が、米下院で僅差ながら可決されました。2017年の減税を恒久化し、新たな減税措置を盛り込んだ本法案は、経済成長の起爆剤となるのでしょうか、それとも財政赤字を悪化させる劇薬なのでしょうか。注目の政策の中身と、今後の行方を解説します。
「One Big, Beautiful Bill」をスローガンに、米史上最大級の減税を宣言
トランプ大統領が再登板後に打ち出した最初の目玉政策が、通称「大きくて美しい減税法案」です。本人自らが「One Big, Beautiful Bill」という特徴的なフレーズを何度も繰り返し宣伝し、SNSでも「米国史上かつてない重要な法案」と語るなど、政権の最重要課題として成立に執念を見せました。
法案の背景には、第一次トランプ政権下の2017年に成立した減税・雇用法(TCJA)が2025年末で期限切れを迎えることへの対処があります。共和党はこのタイミングを逃せば自動的な増税が始まるとし、「増税回避」「成長促進」「財政赤字の拡大」という三つ巴の論点の中で、本法案を強行採決に持ち込みました。
法案に含まれる主だった項目は以下です。
- 個人所得税の減税を恒久化し、標準控除の拡大措置を継続
- 児童税額控除は当面引き上げ(最大2,500ドル)へ
- チップ収入、残業代、自動車ローン利息を期間限定で非課税化
- 中小企業を中心としたパススルー所得控除率を22%へ拡大
- SALT控除上限を1万ドルから4万ドルに大幅引き上げ
- 法人税率は21%に据え置き、研究開発費や設備投資の優遇措置を延長
- EV・再エネ関連の税控除を段階的に撤廃
- メディケイドの就労要件強化など、福祉支出を圧縮
綱渡りの下院通過、上院はどうなる?
本法案は、共和党内の強硬派と温和派の対立、民主党の一糸乱れぬ反対などを経て、下院では215対214というわずか1票差で可決されました。
造反した共和党議員や、採決を逃した議員などが話題となる中、マイク・ジョンソン下院議長は土壇場で保守派に配慮し、メディケイド制限を前倒し。中道派向けにはSALT控除の引き上げを急遽盛り込み、ギリギリで票をまとめ上げました。
今後は上院での審議に移りますが、共和党が過半数を握るものの、修正や再協議の余地が残っており、夏から秋にかけてが山場と見られています。なお、予算調整措置(reconciliation)を用いれば、フィリバスターを回避し過半数での成立が可能です。
景気にとって毒かクスリか? 減税の効果と副作用
共和党はこの法案により「740万人の雇用創出」「中間層への恩恵」「中小企業の活性化」などの効果が見込まれると主張し、経済成長への即効性を強調しています。
一方で民主党や識者は、減税の大部分が富裕層に集中すると警告。議会予算局(CBO)の試算では、所得下位10%の家計資源は実質4%減少、上位10%は約2%増加するとの見通しも出ており、格差を拡大するリスクがあります。
さらに、法人税収減と福祉削減の組み合わせにより、今後10年間で3兆ドル以上の財政赤字増が懸念されており、金利上昇やEV投資の冷え込みといった副作用も無視できません。
政権支持率、ひいては国の舵取りにも影響しうる減税法案の行く末に注目
この法案が上院でも可決されれば、トランプ政権による「減税経済2.0」の幕開けとなります。
法人・個人を問わず税制の先行きが安定する一方、財政の持続可能性や所得格差の拡大という構造的課題も浮き彫りになります。加えて、今後の予算交渉や債務上限問題にも影響を及ぼすことが確実で、2026年の中間選挙や2028年大統領選にも波及効果があると見られます。
この法案は単なる「減税」ではなく、アメリカ経済と社会の方向性を大きく左右する分岐点。引き続き、その行方を注視する必要があります。
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