【この記事のポイント(Insights)】
- トランプ政権が鉄鋼・アルミに50%の関税を課す方針を示し、米製造業に波紋が広がっている。
- 関税強化は一部産業を潤す一方で、多くの下流製造業にはコスト増と雇用減の圧力となる。
- 日本の鉄鋼業や為替市場にも影響が及び、米中関係の緊張再燃と合わせて警戒感が強まっている。
極端な発言で財界や市場を度々揺さぶるトランプ大統領。2025年5月末にも、新たな「トランプ砲」が火を噴きました。次にやり玉に挙げられたのは、鉄鋼・アルミ。これらに対する追加関税を50%にまで引き上げると宣言したことで、製造業関係者を中心に世間に衝撃が広がっています。
この関税が現実になれば、誰が得をして、誰が苦しむのか? 米中関係、日本企業、そして私たちの生活への影響を探ります。
止まらないトランプ関税。鉄鋼・アルミに対する関税を50%!?
2025年5月30日、ペンシルベニア州の製鉄所に立ったトランプ前大統領(現大統領)は、「鉄鋼とアルミニウムに対する関税を50%に引き上げる」と宣言しました。この発言は、すでに2025年3月に再導入された25%の追加関税を倍増させるものです。
この「50%」という数字、聞き流してはいけません。一般的に関税は5〜10%程度でも産業構造を左右する力を持ちます。ましてや鉄鋼・アルミという産業の“基礎素材”に対して50%もの上乗せとなれば、輸入企業のコストは跳ね上がり、輸出元からの供給も止まりかねません。いわば市場からの「締め出し」に等しいのです。
米国以外の同盟国も例外ではなく、英国を除き一律で50%の追加関税が適用される予定とされ、日本の鉄鋼・アルミ業界にとっても見過ごせない動きです。各国メディアもこれを「事実上の経済制裁」や「貿易戦争再燃」と位置付けており、製造業界からは「材料価格の高騰で事業継続が難しくなる」との悲鳴があがっています。
「アメリカの工場を守る」と語るも、逆効果との批判が相次ぐ
トランプ政権は「アメリカの雇用を守る」「国内工場を取り戻す」との旗印を掲げており、関税強化もその一環とされています。たしかに、米国内の一部鉄鋼メーカーやアルミ製錬企業にとっては追い風となっており、株価も関税発表直後に急騰しました。
しかし現実には、鉄鋼やアルミを使って製品を作る“下流”の製造業者の多くが原材料高に苦しむ構図となっています。たとえば、ある自動車部品メーカーが輸入鋼材を使用して足回り部品を製造していたとします。関税によって鋼材価格が上昇すると、メーカーは利益率が急低下(あるいは赤字化)します。そうなると、製造ラインを減らしたり、場合によっては従業員の一部もレイオフ(解雇)する必要すらあります。
さらに、コスト増を価格に転嫁しようとすれば、製品の販売競争力が失われるというジレンマにも直面します。最終的には、「守るはずだった工場」が消えていく――そんな皮肉な展開すら見え隠れしています。
中国の反応は? 日本製鉄への悪影響は? 各所に広がる波紋。
トランプ氏の発言を受けて、さっそく中国政府は「重大な貿易協定違反」と反発。米中摩擦の再燃は避けられないとの見方が広がっています。
日本にとっても他人事ではありません。日本製鉄は現在、米U.S.スチール社の買収を進めており、今回の関税引き上げがこの大型案件にも影響を及ぼす可能性があります。実際、当初トランプ氏はこの買収に難色を示していましたが、日本製鉄が総額140億ドルの投資と雇用維持を約束したことで、トーンがやや軟化。とはいえ、対米審査(CFIUS)の行方次第では不透明な部分も残ります。
また、日本から米国への鉄鋼輸出量は年間100万トン超。関税50%がそのままコストに跳ね返れば、輸出競争力は大きく損なわれ、日本の鉄鋼業界にも確実に影を落とすことになるでしょう。
市場に広がるのは、恐れか? 呆れか?
今回の関税表明を受けて、為替市場ではドルが主要通貨に対して下落。対円では一時0.8%のドル安となり、ドル円相場は142円台に。ユーロやポンドも対ドルで上昇しました。
株式市場はセクターによって明暗が分かれ、鉄鋼メーカーの株価は大幅上昇する一方で、自動車や電機など鉄鋼を使う企業は売られる展開に。トランプ氏の発言に「またか」という呆れも広がりつつ、同時に「このまま本当にやるのか?」という不安も交錯しています。
一部の市場関係者は「トランプ流の交渉術の一環で、最終的には引き下げる可能性もある」と冷静に受け止める一方、「鉄鋼・アルミにこれだけの関税を課すなら、他の品目や国にも広がる可能性がある」と警戒しています。
高関税政策は、“アメリカ第一”を掲げるトランプ大統領の象徴的な施策ではありますが、経済全体にとっては両刃の剣。市場と産業界は今、その刃の向きがどちらを向くのか、固唾をのんで見守っています。
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