1. バイデン政権末期の大統領文書の合法性が問われる
2025年6月4日、トランプ大統領は、バイデン前大統領の認知能力が任期末に著しく低下していたにもかかわらず、側近たちがそれを隠蔽し、大統領文書に自動署名機(オートペン)を使って署名していた可能性があるとして、正式な調査を命じました。
トランプ大統領はこの件について、司法長官パム・ボンディと大統領法律顧問に命じた覚書の中で、「大統領令、恩赦、行政命令、任命、その他全ての公文書が、実際にジョー・バイデン氏の指示と意思に基づいて署名されたのかを調べるように」と求めています。また、オートペンが用いられた文書の特定と、使用の指示を出した人物の調査も命じられています。
この調査が対象とするのは、バイデン政権末期に発出された数千件にのぼる公文書です。中には、退任直前に発表された大量の恩赦や減刑措置、大統領任命、予算執行指示などが含まれます。仮に、これらの文書がバイデン本人の意志を経ず、側近らの独断で発出されたものだと認定されれば、アメリカ憲政史上前例のない「前政権による越権行為」となり得ます。
この問題の核心は、バイデン前大統領が自ら意思決定を行っていたかどうか、そして署名の正当性があるかどうかです。もし大統領権限の行使が、本人の認知が不十分な状態で行われていたと立証された場合、当時の政権関係者や恩赦を受けた人物の法的立場に影響が及ぶ可能性もあります。
2.調査命令は妥当なのか。米メディアや医療関係者の反応は?
この調査命令に対して、米国内ではメディアや専門家の間で意見が分かれています。
ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの中道〜リベラル系メディアは、今回の調査命令を「異例で危険な先例」とし、「現職大統領が前任者の職務能力を公式に捜査することは、政敵を狙い撃ちする危険な政治利用になりかねない」と警告しました。これに対し、保守系のフォックス・ニュースや一部の共和党議員は、「真実を明らかにするための正当な調査だ」と支持を表明しています。
一方、専門家の間でも意見は分かれます。法律家の多くは「オートペンの使用自体は過去の政権でも行われており、本人の意思に基づいていれば合法である」と指摘。仮に自筆でなくとも、憲法上は署名の形式よりも意思決定の実態が重要とされています。
医療関係者、とくに老年医学や認知症の専門家からは、「認知機能の低下があったかどうかを外部から遡及的に評価するのはきわめて困難だ」と慎重な声があがっています。また、「高齢者の政治家が職務を続ける場合、健康状態の透明性を高める制度が必要だ」とする提言も見られました。
民主党側は今回の調査命令について「富裕層減税の議論から世論の目をそらすための政治的陽動」だと批判しており、バイデン氏本人も「全て自分の意思に基づいて判断を下していた」と強く反論しています。
今回の調査が実際にどこまで踏み込まれ、どのような結論に至るかは今後の動向次第ですが、アメリカ政治における「大統領の高齢化と職務能力」という難題を改めて浮き彫りにしたことは間違いありません。調査の結果次第では、憲政上の新たな議論や制度設計にも波及する可能性があります。
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