1.史上最長43日間、米政府はどこまで回復したか?
2025年10月1日から11月12日まで、米連邦政府は43日間にわたり機能を停止しました。これは、2018〜19年の記録(約35日間)を上回る、米史上最長のシャットダウンです。背景には、オバマケア補助の延長を巡る与野党対立があり、民主党が医療保険補助を継続する予算措置を求めた一方、トランプ政権と共和党はこれに難色を示し、予算成立に至らなかったことが原因です。
シャットダウン解除は11月12日夜に決定し、翌13日からは約75万人の連邦職員が復帰しました。税務当局(IRS)や国勢調査局、移民関連機関は業務を再開し、航空管制や入国審査など安全に直結する分野も安定を取り戻しつつあります。
一方で、機能停止中に蓄積したバックログ(未処理業務)の処理には時間がかかっており、特にIRSでは申告対応や問い合わせへの遅延が続いています。統計発表では、10月分の雇用統計が欠測となったことが象徴的です。また、連邦契約の入札や公共サービス再開も一部遅れが残っており、完全な正常化には至っていません。
さらに、今回の再開措置は2026年1月末までのつなぎ予算によるもので、恒久的な歳出合意には至っていない点も重要です。わずか数ヶ月で再びシャットダウンの懸念が浮上する可能性は十分にあり、政府の信頼性や安定性に対する不安は拭えません。
2.回復不能なGDP損失は70〜140億ドルとの見立て。家計、消費、信認までを揺るがした“43日間の代償”
今回のシャットダウンは、国民生活と市場に広範な影響を与えました。まず、給与支給が滞った連邦職員は100万人規模に達し、生活費をまかなうためにフードバンクを利用する例も多く見られました。社会保障の窓口業務は停滞し、新規申請やカード再発行などが後回しに。さらに、フードスタンプ(SNAP)やWICといった栄養支援プログラムの給付も一時不透明となり、低所得層や子育て世帯に不安が広がりました。
観光や地域経済への影響も小さくありません。国立公園や博物館は全面閉鎖され、観光客は利用できず、周辺の飲食・宿泊業への打撃も報告されています。地域経済の縮小は、地方消費の冷え込みにもつながりました。
金融市場では、閉鎖そのものによる直接的なショックは小さかったものの、政府統計の発表停止が経済分析に空白をもたらし、FRBによる金融政策の判断材料が乏しくなる場面も。ドルは一時下落し、米国債の信用不安と相まって為替市場に不安定さを残しました。主要格付け機関が近年相次いで米国債の最上級格付けを外している中、今回の長期閉鎖はさらに信認を揺るがす材料となりました。
また、消費者マインドも冷え込みました。ミシガン大学の消費者信頼感指数は、閉鎖期間中にコロナ禍以来の低水準に低下。給与未払いによる一時的な消費の抑制に加え、先行き不透明感が消費・投資行動の先送りを招きました。閉鎖終了後、連邦職員への遡及給与支給により一部の需要は回復すると見られていますが、経済活動の空白が完全に埋め合わされるには時間がかかりそうです。
議会予算局(CBO)は、回復不能なGDP損失を70〜140億ドルと試算しています。また、予算編成の硬直化、継続予算(CR)への依存、政治的対立の制度化など、構造的な問題が顕在化したことも中長期的な“傷跡”と言えるでしょう。
再発防止のための制度改革や自動継続予算の導入といった議論が加速しなければ、今後も同様の混乱が繰り返される恐れがあります。投資家や政策関係者にとっては、こうした財政機能の“脆さ”が、米国経済の新たなリスク要因として意識される局面に入りつつあります。
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