Highlights
- 中国最大の不動産会社・恒大集団がデフォルト危機に瀕している
- 政府の救済措置で破綻を回避できたとしても、不動産市場は価格崩壊を起こす可能性がある
- 投資家たちが中国離れを起こした場合、日本とアメリカが有力な投資先になる可能性も
デフォルトの危機が迫る? 中国・恒大集団の明暗は
2021年9月中旬、中国最大の不動産会社である恒大集団が、デフォルト(経営破綻)の危機に瀕していることが大々的に報じられました。
恒大集団は過去、「身の丈に合わない」と表現されるほどの巨額な投資を行っており、その投資費用を世界各国の金融機関から借り入れることで賄ってきました。一説では、その金額は約33兆円にのぼると言われています。これに則るなら、一企業の借入金額が日本の国家予算の約3分の1にまで膨れ上がった計算になります。
恒大集団のデフォルトが世界的ニュースとなったのは、世界の債券を持つ金融機関や、取引先企業(主に中国企業)の連鎖倒産が懸念されているためです。その規模の大きさと、市場に与えるダメージの大きさから、リーマンショックになぞらえて「恒大ショック」という言葉も生まれています。
果たして、この恒大ショックによって、アメリカの不動産市場はどのような影響を受けるのでしょうか。
中国不動産市場全体のバランスが大きく崩れる可能性も
実は、専門家の多くはこの騒動を「リーマンショックのように世界経済が大きく混乱することにはならないだろう」と指摘しています。もし、中国政府が一切の救済措置を行わない場合はそのような事態も考えられるのですが、恒大集団の破綻によって最もダメージを受けるのは他ならない中国経済であることを考えると、政府が救済を行わない可能性は低く、事態は軟着陸するだろうというのが大方の見方です。
ただ、救済が行われる場合でも、中国の不動産市場が全体的に低調化することは確実視されています。恒大集団が巨額の返済資金を確保するためには、保有する不動産を売却して現金化する必要があるため、現金化を急ぐ場合には、通常では売却しないような不利な条件で投げ売りせざる得なくなることも考えられます。
実際、恒大集団はこの数年間にわたり、大幅な値引きを何度も行っています。2020年9月には全物件の一律30%値引きを行い話題になりましたが、2021年現在の値引き幅は住宅物件が28%、オフィスが46%、駐車スペースは52%と、さらに大きなものとなっています。
不動産市場では、一つのエリアに大幅に値引きされた物件があると、周辺の物件が売れにくくなるという傾向があります。もし恒大集団と同エリアに不動産を販売している会社があり、現在の投げ売りじみた値引き期間をやりすごせないような場合は、自分たちも値引きに踏み切るしかありません。つまり、保有物件量も最大規模の恒大集団が一律値引きを行えば、周囲もそれに引きづられ、不動産市場の相場そのもののバランスが崩れてしまうのです。現時点ですでに下降気味の中国不動産価格ですが、このデフォルトによる負の影響で、その傾向はさらに増す可能性があります。
中国不動産市場の資金が、別の市場へと移動する?
前ブロックでのシナリオで中国不動産価格が下落した場合、他国の不動産市場にはどのような影響があるのでしょうか?
カギを握るのは投資家たちの振る舞いです。その動きは、大きく2パターンに分かれると予想されます。一つは、価格が下落した中国不動産を買い漁る動き。バブル崩壊後の日本でも、海外の機関投資家による不動産の買い漁りが目立ちました。市場がどんなに低調でも、土地や建物の価値自体はゼロにはなりません。その価値に対して、価格が十分安いと判断すれば、投資家たちの購買意欲は刺激され、中国不動産への投資が活発化することも考えられます。
もう一つは、中国の不動産市場から投資家たちが撤退し、別の市場へと資金を移す動きです。中国不動産市場は、政府介入により最悪の事態こそ免れるというのが大方の見方ですが、かといって好材料があるわけでもなく、ショックの影響を引きずり、しばらく低調が続くことも予想されます。そのような低調な市場に資金を残すよりも、より可能性のある他市場に投資しようとするのは自然な動きといえます。
これらのパターンのうち、前者の「値下がりした中国不動産を買い漁る」動きが加熱するのは、市場が完全に崩壊しきったタイミングです。現在の中国不動産市場は、まだそこまでの段階にはないので、少なくとも直近の動きとしては、後者の「他の市場に資金を移す」が中心になりそうです。
中国不動産マネーが向かう先は日本とアメリカ?
もし、予想通りに投資家たちが中国不動産から撤退し、新しい市場に資金を移すとしたら、その資金はどこへ向かうのでしょうか。
「別の市場」には、もちろん株式やその他金融商品の市場も含まれますが、やはり他国の不動産市場へ向かう割合が最も大きいと考えられます。なぜなら、ポートフォリオバランスのなかで不動産投資用に当てていた資金を、いきなり別用途に切り替えるのは、投資戦略として得策ではないからです。
その対象として有望視されるのは、日本とアメリカです。
日本の不動産市場の魅力は、なんといっても安定性です。かつてバブルを経験したことで、不動産価格は一度適正化され、その後も、極端な値上がりは起こっておらず、実態とのズレも小さいため、バブルが弾けるリスクがないのが魅力です。また、日本の不動産会社の財務状況は、中国の不動産会社と比べてはるかに健全で、破綻の心配が限りなく低いことも要因に挙げられます。恒大ショックに懲りた投資家たちが、日本の不動産市場の安定性に惹かれる可能性は大いにあるといえるでしょう。
対して、アメリカの不動産市場は、日本とはまた違う理由で、投資家たちにとって魅力的です。今、アメリカでは住宅を中心に不動産価格の上昇が続いており、大きなキャピタルゲインが狙える市場です。この価格上昇を「バブルだ」と言う人もいますが、中国と状況が違うのは、上昇理由が実体経済に紐付いていること。今、アメリカの不動産市場を活性化しているのは、人口の増加と経済成長、そしてゆるやかなインフレです。これらの裏付けがあることは、投資家たちの安心感につながっているといえます。
投資家の中国不動産離れはすでに始まっていると見る向きもありますが、中国の動きが他市場にどんな影響を及ぼすか、アメリカ不動産投資を行っている人も要注目です。
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