【この記事のポイント(Insights)】
- 世界各地で地政学リスクが高まっており、米国不動産市場もその影響を受ける。
- 防衛産業が伸びるため、それらが盛んな都市では景気がよくなり、不動産市場も好調になる傾向がある。
- 国際貿易が盛んな港湾都市は、貿易戦争や経済制裁の影響を直接受けるため、不動産市場も一時的に低迷する傾向がある。
世界各地で高まる地政学リスク
近年、世界各地で地政学リスクが高まり続けています。ウクライナ紛争はロシアの侵攻によりエスカレートし、国際社会の緊張を一層高めました。また、イスラエルとガザの対立も激化し、中東地域の不安定要素が増しています。さらに、米中関係の緊張は、貿易戦争や技術覇権争いを背景に深刻化しています。これらのリスクは、世界のサプライチェーンの混乱やエネルギー価格の高騰を引き起こし、世界経済に広範な影響を与えているのはご存知の通りです。もちろん、アメリカ不動産市場もその影響からは逃れられません。本記事では、地政学リスクがアメリカ各都市の不動産市場が、地政学リスクから受ける影響の傾向をご紹介します。
傾向.1:防衛関連産業が盛んなエリアの不動産市場は、むしろ追い風を受ける
リスクというと、ネガティブな影響がまず頭に浮かびますが、必ずしもそうではありません。アメリカは防衛関連産業が盛んですから、地政学リスクの高まりはビジネスチャンスでもあるのです。防衛関連産業企業が集まることで知られる都市では、雇用や収入が増え、不動産の需要も増す可能性が高いです。
防衛関連産業が盛んな都市としての代表格はワシントンD.C.、ハンツビル(アラバマ州)、サンディエゴ(カリフォルニア州)、ジャクソンビル(フロリダ州)などです。これらの都市では過去に地政学リスクが高まった時期、例えば9.11やロシアによるウクライナ侵攻後に不動産市場が成長しています。
傾向.2:貿易拠点である港湾都市は、ダメージを受けやすい
反対に、地政学リスクが逆風となりやすいのが国際貿易都市です。国際関係の緊張により、貿易戦争や経済制裁が発生すると、輸出入活動が停滞します。これにより、港湾都市の物流産業の売上を直接的に低下させられます。また、港湾都市では、石油や金属などの輸送コストが大きい物品の製造業も盛んな傾向にありますが、これらの原材料の仕入れも滞ります。これら主要産業が傾き、従業員の収入水準が下がると、小売業やサービスなども振るわなくなるという悪循環が起こります。
アメリカの代表的な港湾都市には、金属製品の輸出入が盛んなニューヨーク市、アジア圏との貿易を支えるシアトル(ワシントン州)、石油産業で発展したヒューストン(テキサス州)などが挙げられます。これらの都市では、例えば9.11やロシアによるウクライナ侵攻後に一時的に経済が低迷し、オフィスの空室増を中心に不動産市場も打撃を受けました。
傾向.3:地力がある都市は、短期で不調になっても長期的に見れば盛り返す
上述の通り、地政学リスクの影響は小さくありません。とはいえ、不動産市場としての地力のある地域は、短期(数ヶ月-1年スパン)的に低迷したとしても、長期(3-10年スパン)的に捉えれば必ず盛り返します。
「不動産市場としての地力」とは、人口動態であり、投資家からの注目度です。人口が増加傾向にあり、投資家から注目度が高い都市であれば、不動産価格が下がりっぱなしになることはありません。産業低迷で一時的に下がったとしても、その都市から離れるつもりのない住民や、安く買って高く売りたい投資家からすれば、押し目買いのいい機会になるからです。彼らが買い支えることによって、価格は下げ止まり、やがて復調することが期待できます。
最後に、近年になって防衛関連産業が盛んになった都市を消化します。地政学リスクが今後さらに高まるとしたら、これらの都市の不動産市場も大いに成長する可能性がありますので、ぜひご注目ください。
オースティン(テキサス州)
元々テクノロジー産業が盛んだったが、近年は防衛関連のテック企業も急増。特にサイバーセキュリティや先端技術の開発が進んでいます。
デンバー(コロラド州)
宇宙産業の拠点としても成長しており、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンなどの大手防衛企業が集まっています。
レドモンド(ワシントン州)
マイクロソフトの本社があることで知られ、人工知能やサイバーセキュリティ分野での防衛技術開発が活発です。
ロサンゼルス(カリフォルニア)
西海岸を代表する港湾都市で貿易不調のリスクはあるものの、近年は宇宙関連技術やドローン技術の開発拠点としての存在感を強めており、防衛関連のスタートアップ企業が多いのも特徴。ポジティブな影響のほうが大きいと予想されます。
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