1. 許可は前年比11%減。クレーン稼働も商業で大幅減少、建設現場の停滞広がる
米商務省が発表した2025年8月の住宅建設統計によると、住宅着工件数は年率130.7万戸となり、前月比8.5%減、前年同月比6.0%減でした。建築許可件数も131.2万戸と前月比3.7%減、前年同月比11.1%減となり、二桁減少が続いています。特に許可の減少は、新規案件の先細りを示しているとみられます。内訳では、一戸建てが89.0万戸(前月比7%減)、集合住宅が40.3万戸(11%減)で、住宅市場全体に減速感が広がっています。
建設活動全体でも鈍化が見られます。国際的な建設コンサル会社Rider Levett Bucknall(RLB)が公表した最新のクレーン指数(建設活動の旺盛さを測る指標の1つとして知られる)によると、商業用プロジェクト向けクレーン台数は前回調査から44%減となりました。調査対象の17都市のうち、ニューヨーク、ロサンゼルス、マイアミなど7都市で20%以上の減少が報告されています。住宅分野だけでなく、商業施設やオフィス再開発など、非住宅分野の停滞も顕著です。
2. その他指標からも見える、建築プロジェクトの停止・延期・長期化
資材価格、労務費、工期の3つの指標からも、建設活動の鈍化傾向が読み取れます。
建設資材価格:コスト上昇が継続
建築材料価格指数は2025年8月時点で前年同月比3.4%上昇し、2カ月連続で3%を超えました。鉄鋼価格は9.2%上昇、銅線やケーブルは13.8%上昇するなど、資材インフレが長期化しています。こうしたコスト上昇は、許可件数や着工件数の減少と整合します。採算が合わず、新規着工を先送りする動きが広がっているためです。
建設労務費:人手不足が構造化
現場の非管理職労働者の賃金は前年同月比9.2%増(2025年7月時点)と高い伸びを示しました。建設業の雇用者数も過去1年で約2万6千人減少しています。人手不足による労務費の上昇がプロジェクトコストを押し上げ、結果的に新規着工を抑制する要因になっています。熟練工の不足による工程遅延が、クレーン稼働の減少とも一致しています。
工期・在庫:建設サイクルの滞留化
住宅1棟あたりの建設期間は年々長くなっています。2019年には「着工から完成まで13カ月超」の住宅が全体の9%でしたが、2024年には13%へと拡大しました。また、着工許可後に未着工のまま残る戸数は13.3万戸(2025年8月)と依然高水準です。工期の長期化により、クレーンの稼働効率が低下しています。許可や着工が減っても、現場では「止まっている」プロジェクトが増えており、実際の作業量はさらに少ない状況です。
構造的なコスト高が、許可減(先行指標)→着工減(実体)→クレーン稼働減(現場)という形で連鎖していると考えられます。現場では「プロジェクト数が減る」「進行速度が落ちる」という二重の減速が進んでおり、数字以上に実感としての冷え込みは深まっています。
住宅着工と許可の減少、クレーン稼働の大幅な落ち込み、そして資材と人件費の高止まり。複数の指標が同じ方向を指していることは、米国の建設セクターが「踊り場」に入ったことを示していると言えるでしょう。
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