みんなやってることなのに……。3億円オーバーの追徴課税を支払った相続人の悲劇
日頃意識する機会は少ないものの、故人の資産額によっては大きな金額を納めなければならない可能性がある相続税。大きな資産を相続する(させる)予定のある方は、納税用の資金をどう確保するか、さらには税額そのものをどう圧縮するのか、頭を悩ませているかもしれません。今、そんな相続税を節税するためのある手法が、今後使えなくなる可能性が高まっています。
2022年4月、相続税をめぐるある訴訟に最高裁が判決を出しました。2012年にマンションを相続した遺族が、ある節税法による計算に基づいて相続税を0円と申告したところ、税務署は租税回避とみなし3億円オーバーの追徴課税処分を実施。それを不服とする遺族が、処分の無効を求める訴えを起こしたのです。しかし、一審・二審は国税を支持し、先日の最高裁判決で、国税の対応が適切であったことが決定付けられました。
この判決は、法曹界はもとより、資産家自身やその税理士、そして不動産会社から大いに注目を浴びました。というのも、原告(遺族)が用いた節税手法は、日本国内で相続税の節税を考えるなら一番に選択肢に上がるような、いわば定石とも言えるべき手法だったからです。税圧縮効果が非常に大きく、もちろん適法でもあるこの手法を使うつもりで準備を進めてきた方はたくさんいるはずです。不動産会社としても、物件販売時のセールストークにフル活用していたことでしょう(私はアメリカ不動産販売の担当で、国内の高額な投資用不動産は販売していませんので、あくまで想像ですが)。彼らは自身の暮らしや業務への影響を心配し判決を見守りましたが、残念な結末を迎えてしまいました。
国内不動産ならではの資産評価方法「路線価」
もったいぶって書きましたが、その手法とは「路線価に基づく不動産評価額圧縮」です。相続税は、相続した資産の総額から控除額を引き、税率(累進)をかけて算出されます。しかし、相続する資産は現金や有価証券などの金融資産だけとは限りません。多くの場合、実物資産も含まれますので、その価値を評価し、現金価値に換算して相続額に加算する必要があります。
相続税節税の肝は、この「現金価値に換算」の部分にあります。同じものを相続しても、1000万円の価値があるとするか、100万円の価値だとするかで相続税額が大きく変わるからです。ただし、恣意的に評価して計上することはできません。それを許すと、誰もが資産価値を低く見積もり、節税し放題になってしまうため、財産の種別ごとに評価方法が定められています。
自動車やアートなどは、購入価格または買取業者の査定やネットオークション等での類似品の価格といった市場価格のいずれかによって評価します。不動産もこれらの方法で評価していいのですが、多くの人は「路線価」による評価を用いていました。路線価は、地価計算用の基準となる価格です。路線価の定められている地区では、道路毎に1平米あたりの価格が定められており、その道路に接する土地の価値は概ねその実勢価格の0.8倍の価値であるとされています。
土地の値段評価のための手法ですから、当然ですが、物品(動産)の価値の評価には使えません。つまり都市部の不動産ならではの評価法なのですが、実はこの方法で計算した評価額は、購入金額より低い価値に収まることがほとんど。特に、都心部の場合はその差額が非常に大きくなる場合が多く、節税効果は絶大です。しかも、路線価基準額を決定しているのが他ならぬ国税局ですから、「お墨付き」と考えてしまう人がいるのも無理からぬことなのかもしれません。こうした事情から、相続税対策はこれ一択と言う人もいるほどでした.
路線価と鑑定価格でどれだけ違うのか?
今回の判決では、その路線価評価の方法が一部否定され、ほかの物品と同じく市場価格によって評価すべく鑑定評価が行われました。評価額の具体的な差は、以下の図を御覧ください。
差額は驚きの9億3930万円。およそ10億円です。実際には、不動産以外の資産や負債と合算した相続総額によって税率が決まるため、路線価評価によってどれくらいの節税効果があるのかはケースバイケースです。しかし、これほどまでに資産評価額を圧縮できる方法は他にはなく、どんな資産構成にせよ大きなインパクトがあるのは間違いないでしょう。
この数字だけを見ると、国税局がその算出方法を「著しく不適当」で「租税負担の公平に反する」と主張することに納得しそうになりますが、これまではこの評価が通っていました。また、今回の事例の評価額圧縮率は、路線価を用いた場合の圧縮率としては一般的な水準で、特別高いものではないようです。
税理士や不動産関係者たちは、
・税務署が定めた路線価による評価方法を、税務署自身が否定するのはおかしい
・他の多くの納税者には路線価評価を認めてきたなかで、原告のみ認めないのは公平性に欠く
という点を根拠に、最高裁による追徴課税取り消しもありえるのではと期待していたようですが、裁判官は節税目的の資産操作そのものを問題視。被相続人が銀行借入を行う際の貸出稟議書に「相続対策のため不動産購入を計画。購入資金につき、借入の依頼があったもの」と記載があったことが心象を悪くしました。他の不動産購入者との公平性ではなく、一般の納税者との公平性を重視した結果、今回の判決に至ったようです。
相続対策としては、アメリカ不動産と同条件に
1点強調しておきたいのは、不動産購入による節税効果がゼロになったわけではないということ。先ほどの表をもう一度見てください。不動産の購入額13億8,700万円に対し、税務署による鑑定額は12億7,300万円。非常にシビアに評価したであろう税務署鑑定でさえ、1億円以上の評価額圧縮はできているのです。路線価評価のような大幅な圧縮はできなくとも、1割前後の圧縮は今後も無理なく可能でしょう。
アメリカ不動産をご案内している身としては、今回の判決を機に、アメリカ不動産に目を向けてくださる方からのお問い合わせが非常に増えたということです。当たり前の話ですが、アメリカの土地には、日本の国税局による路線価が存在しません。そのため、以前から鑑定による評価方法が用いられており、相続税対策としては路線価方式を用ることのできる国内不動産に分がありました。しかし、この判例を機にその差がなくなったことで、単純に投資資産としての比較をしていただくことができるのではと期待しています。
アメリカでは住宅需要の高まりやインフレにしたがって家賃を値上げしていくのが当たり前なため、インカムゲインが年々増していく傾向にあります。また、日本のように新築至上主義ではなく、中古物件も人気で価格が高く保たれやすいため、キャピタルゲインも狙いやすいと言えます。収益性の面で国内不動産よりも有利な点が多くありますし、円安ヘッジになるという側面もあります。この機会に、日本以外の不動産に目を向けてみてはいかがでしょうか?
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