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第4回 米国株暴落と言っている場合ではない? グローバル資産としての日本株の凋落【米国不動産のプロが解説】

米国株の「暴落」の影で……

米国株の大幅な下落が連日報じられています。コロナ禍以降、金融緩和の恩恵を受けて右肩上がりだった相場に慣れてしまった人からすると、「暴落」と言える状況かもしれません。一方で、長年相場を見続けてきたベテラン投資家からすれば、これは単なる調整の範囲内。それほど驚くような動きでもありません。長引くウクライナ危機、歴史的と言われるインフレ、そして先日のFedの利上げ発表などの材料を鑑みれば、ありえる範囲の値動きと言えるのではないでしょうか?

それよりも、私が心配しているのは日本株の凋落ぶりです。というと、「米国株が下がってるんだから当たり前だろ!」という声が聞こえてきそうです。たしかに、日本株は米国株に長年ピタリと連動し、コピー相場とまで言われていました。日本にとってアメリカは、輸出入ともに中国に次ぐ2番めの貿易相手。米国の景気が悪くなれば、日本製品も売れにくくなるため、相場が影響を受けるのは当然です。

しかし、そうした前提を踏まえても、やはり現在の日本株の相場は緊急事態です。そう言い切る理由を示しましょう。

もはや「コピー相場」を言い訳にできない

次のグラフは、日経平均とS&P500のチャートを重ね合わせたものです。ただし、日経平均は円ではなくドル建てで計算し直しています。

ドル建て比較

いかがでしょう? グラフの大部分は、たしかにコピー相場であったことを示しています。S&P500が上昇すれば日経平均も上昇し、S&P500が下落すれば日経平均も下落する。ごく短い期間、例外的な動きをしたことはあれど、基本的にはその原則に従ってきました。しかし2020年冬以降、S&P500が上昇するなか、日経平均だけが独り下降に転じています。現在、このところの米国株下げにより、両相場とも右肩下がりになってはいますが、その差は歴然です。

ここまでコピー相場が崩れたのは、実に1998年以来のことです。当時、テックブームに湧く米国経済に対し、97年末の山一證券、北海道拓殖銀行破綻に端を発する金融危機に陥っていた日本。このときも両国の相場は大きく乖離しました。今の相場は、それに匹敵するくらいに異常な状況なのです。

アメリカにとってもデメリットは存在する

とはいえ、ドル高によってアメリカの一人勝ち状態が生まれるかというと、決してそうではありません。

なぜなら、アメリカにもまた、輸出企業や海外で事業を展開する会社が数多く存在し、それらの企業はドル高によって海外売上の数字も下がります。そうなると必然的に株価も下がるため、投資家たちにも悪影響を及ぼす可能性が大いに考えられます。企業側も、多少の為替変動に対してはリスクヘッジを行なっているものの、個々の企業の自衛策には限度があるため、ドル高が行き過ぎるとアメリカの産業構造に亀裂が走る可能性も考えられるでしょう。

しかし、ドル高の主な要因と考えられている利上げをストップすることは当面は難しいと思われます。なぜなら今回の利上げは、アメリカ市民を苦しめるインフレを食い止めるための施策としてあるからです。特にアメリカは今年11月に中間選挙を控えており、低迷している支持率を少しでも回復させたいと考えているバイデン政権は、市民からの支持を獲得するためにも、インフレ抑制の手をゆるめるわけにはいかない事情もあります。

ドルの強さを大きく左右するアメリカの金融政策ですが、不動産投資に関わる方も、今後の動向をぜひ注視しておきたいところです。

外国人投資家は、円建てで見ない

読者のみなさんのなかには、突然ドル建てで比較をしたことに違和感を持つ方もいるかもしれません。しかし、日本株の相場を大きく左右する、外国人投資家の動向を探るには、基軸通貨であるドル建てで考えるべきです。アメリカドル建ててパフォーマンスを検証している彼らにとって株価の高い安い、つまり「買い」か「売り」かをローカルな円建てでは判断しないからです。

東京証券取引所の株式分布状況調査によると、2020年度の日本株の外国人保有比率は30.2%。いまや日本株の実に3分の1近くが外国人投資家の手にあります。なかでも、大口取引で相場に影響を与える機関投資家の割合が多いことも見過ごせません。

不思議なことですが、日本ではS&P500が10ドル下がっても翌朝のSNSは落ち着きを払っているのに、日経平均が1,000円下がるとそれはもう大騒ぎです。騰落率で言えば、これらは大差ないくらいの変動なのですが、円建てのほうが見た目の桁数が大きい分、インパクトが大きく感じてしまうのかもしれません。そういう意味でも、基軸通貨であるドル建てに計算し直して見るようにすれば、よりグローバルな視点で相場を見ることができるのではないでしょうか?

明暗を分けたコロナ禍への対応

相場の乖離を生んだのは、2020年冬という時期からも分かるように、これはズバリ、コロナ対応の差です。といっても、安易な政府の政策批判がしたいわけではありません。国の取った政策は、両国とも未曾有の金融緩和という点で一致しているからです。

この差を生んだのはむしろ、民間企業の対応の違いであり、その背景にある労働法の違いでしょう。アメリカでは、コロナ禍により世界的に経済活動がストップしたときにドラスティックなレイオフ(雇い止め)を行い、経済活動再開に合わせ、金融緩和で企業に回った資金をもとに再雇用を加速しました。失職した人が再び職に就いたわけですが、人材不足もあって多くの人がレイオフ前よりも2~3割高い給料を手にしたと言います。こうした人件費上昇や、生産停止期間の影響による在庫不足などが、モノやサービスの価格上昇につながり、米国経済は一気に回復しました(勢いがありすぎてインフレに陥っている側面もありますが……)。

一方、日本はというと、アメリカのように思い切って雇用調整することができません。社員を守るというと聞こえはいいのですが、売上が芳しくない間も人件費を下げられず、経営に大きなダメージを受けました。これでは、企業が内部留保を多く保とうと思うのも無理がない話で、コロナが明けても、インフレが襲来しても給与をあげられません。そもそも雇用を守っているため、再雇用による給与水準上昇もありません。給与が上がらないと購買力も上がらないため、物価も変わらず、よって、アメリカのようなV字回復を果たせず、経営体力だけが削られたのでした。

少なくとも、グローバルに経済をウォッチしている外国人投資家はそのように判断したのでしょう。先ほどのグラフがそう証明しています。

株の前にそもそも……

最後に、恐怖画像をお見せして記事を締めたいと思います。下のグラフは、ある金融商品のドル建ての価格推移です。何の投資だか分かりますか? そしてこの商品を、いま買いたいと思いますか?

ドル建ての価格推移

答えは「日本円」です。見慣れたドル円のグラフを逆さにするだけで、恐ろしいグラフになりますね。景気が悪く、通貨も弱い。グローバルな投資視点に立った際の日本株にとっての逆風は、これらかも思いのほか強くなりそうです。

 


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