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第3回 中国のゼロコロナ政策失敗で、中国以上に割を食うのが日本である理由【米国不動産のプロが解説】

 

ゼロコロナ政策も虚しく、中国各都市で続出するロックダウン。その煽りは日本にも……

かねてから、現実的ではないと指摘されてきた中国のゼロコロナ政策ですが、いよいよ限界を迎えようとしています。

感染者がごく少数見つかっただけで(場合によってはたった1名でも!)、都市をロックダウンさせるというシビアな感染防止策を取って来た中国政府。しかし、感染力の高い変異株の猛威を防ぎ切ることはできず、4月18日時点で22もの都市/地域がロックダウンに追いやられています。上海では、陽性認定者が40万超に達するなど、ゼロコロナ政策を継続するのはもはや不可能と言っていいでしょう。

しかし我々日本人にとって、この状況は対岸の火事ではありません。それどころか、被る経済ダメージは中国本国よりも日本の方が大きいとすら言えます。今回は、中国のゼロコロナ政策失敗が日本経済に何をもたらすのかを考えてみます。

中国のロックダウンで、日本の原材料や部品の供給が断たれる

中国は今や世界のサプライチェーンの中心的存在です。輸入総額こそアメリカにわずかに及ばず世界2位ですが、輸入額および輸出入を足し合わせた貿易総額では世界1位(いずれも、2020年の順位)。その中国が経済活動を自粛すれば、世界規模で物品の過不足が発生することは避けられません。

その際、最も割を食うのは日本です。日本にとって中国は、輸出入の双方で一番の貿易相手国です。その金額とシェアは、輸出が約15兆円で全体の22.0%、輸入が約17.5兆円で25.8%(いずれも2020年の実績)。それぞれ約4分の1を占めており、この金額が激減するとなると、貿易ビジネスには大きな痛手です。しかし、本当に恐ろしいのはここからです。問題の本質は金額ではなく、その中身にあるのです。

2020年の日本の輸入相手国 上位5カ国

日本は資源が乏しいため、各種製造業で用いる原材料を国内で賄うことができません。また、人件費も安くない(高いとも言えないのが悲しいところですが……)国ですから、加工の精度や特殊な仕様が求められない部品や機械パーツは、人件費が抑えられる海外で製造しています。これらの素材や中間財(部品や機械パーツ)に対し、高い技術力や企画力、ホスピタリティーなどで付加価値を加え、それを国内外で高く売るのが日本の製造業の勝ちパターンです。そして、その素材や中間財の主な供給源こそ、ほかでもない中国なのです。

木材加工業を営むお客様から聞いた、現場の切迫感。

私の本業は米国不動産の売買コンサルティングなのですが、先日その商談でとある木材加工会社の経営者さんとお話する機会がありました。そこでここに書いたようなゼロコロナ政策に関する懸念についてお話したところ、大いに共感していただけました。

その企業でも、もともと中国産の加工木材を使用していたそうなのですが、私と同じようにゼロコロナ政策に不安を覚え、数ヶ月前からベトナムの加工木材に切り替えられたとのこと。ベトナムにはツテもなく、サプライヤー探しにはずいぶん苦労されたそうですが、おかげで現在は大きな心配ごとなく事業を継続できているようでした。「他社は中国で一次加工されている材料を使っているところがほとんどで、今はみんな青い顔をしている」とおっしゃっていました。

俺は製造業じゃないから関係ないぞとお思いの方も、安心してはいられません。ゼロコロナ政策失敗の影響が著しく大きくなった場合の、最悪のシナリオはこうです。

1. 中国国内の生産網や物流網がストップする
2. 日本に素材や中間財が入ってこなくなる。
3. 日本の製造業が、ものを作れなくなる。
4. 売り物がなくなり、製造業の業績が悪化。雇用にも影響が出る。
5. 一部の物品が品薄になり、価格が高騰する。市民生活にも影響が出る。
6. 輸出量も減り、貿易赤字が悪化。外貨獲得手段が減少し、円安がますます進行。

ここまで来ると、国民全員に影響が出ます。警戒するに越したことはないでしょう。

「日本以外も総崩れ」にはならない理由

中国は世界一の輸出国ですから、日本以外にも中国への依存度が高い国はいくらでもあります。それらの国も日本と同じくらい影響を受けるのなら一人負けにはならずに済むのですが、生憎、日本ほど影響を受ける国はなさそうです。

まず、当事者である中国はどうでしょうか? 輸出売上が無くなることの負の影響はさぞや大きいだろうと思いきや、案外そうでもなさそうです。なぜなら、売上は無くなるのではなく、遅れるだけだからです。
中国からの輸出が止まると、各国は別の供給源を探すでしょうが、条件の合うサプライヤーはそう簡単には見つかりません。価格やクオリティーはともかく、物量の面で中国の代わりを務められる国はまず見当たらないからです。結局、顧客のほとんどは中国の経済活動を待つしかなく、売上も戻ってくるのです。ダメージと言えば政府が営業停止期間分の税収を失うくらいのものでしょう。

次に、対中輸入比率(2017年)で上位の国は、北朝鮮、香港、カンボジア、マカオ、キルギスなどですが、これらの国々は工業国ではありません。輸入品目も、そのまま販売・使用する最終財が多く、小売業への影響が中心になると予想できます。多少の痛手となりますが、産業構造や雇用が大規模に破壊されることはないでしょう。しかも、です。中国はあのロシアを制裁しないため、ロシアからの資源を無制限に格安で買い付けることができるのです。

最後に、中国との貿易額が最大の国はアメリカ。アメリカにとっても中国は最大の輸入相手国で、そのシェアは2019年実績で18.1%と、なかなか高い数字です。が、アメリカは日本と違い、国内の生産網が強く、輸入への依存度が日本よりも圧倒的に低いことで知られます。資源産出国で、国内の労働力も豊富。コロナ禍からの回復の兆しが見えるやいなや、アグレッシブに雇用を増やしたこともあり、中国からの輸入減を国内生産でカバーする体力があります。

ロシアへの経済制裁の煽りを食らう、あの国に似た状況

この状況は、ある意味ドイツと似ています。EUのなかでもロシアへの依存度が高く、かつ工業国であるドイツは、ロシアからのエネルギー資源輸入が止まることで大打撃を受けるとされています。代替供給源はG7が確保するとされている分、日本よりマシな状況かもしれませんが、エネルギー価格が上昇するのは間違いなく、ドイツの主要産業である自動車メーカーや機械メーカーに大きな影響が出るでしょう。

ポーランドやスロバキア、ハンガリーなどもロシアからのエネルギー輸入が多い国ですが、これらの国は産業用途でのエネルギー消費が少ないため、家庭用の電気代などが跳ね上がる程度で済むと言われています。また、多くの家庭では今でも薪ストーブが現役とも言われ、国民達が工夫することで難局も乗り切れるでしょう。

日本とドイツの類似性を見ると高リスクの要因は、旧社会主義国家と隣接する、高度に工業化された、輸入依存国という点にありそうです。国の位置関係は変えられませんし、高い技術力という武器を捨てるのもナンセンスです。そうなると、輸入元ポートフォリオを分散するというのが今後の有力な対応策になるのかもしれません。投資も国家運営も、リスク分散が大事という点では同じですね。

 


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