ムーディーズ、米国の信用を「Aaa」から「Aa1」へ引き下げ。各種市場に波紋。
2025年5月17日、米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、米国の長期信用格付けを「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げたと発表しました。「Aaa」は同社における最上位の格付けであり、米国は1949年以来この格付けを維持してきました。今回の発表により、米国は三大格付会社すべてにおいて「最高評価」の地位から陥落したことになります。
ムーディーズは格下げの理由として、連邦債務の増加と持続的な財政赤字の拡大、さらに今後の政策対応における政治的な不透明さを挙げています。声明では「中長期的に財政指標が弱体化する可能性が高く、政府の財政柔軟性も低下している」と指摘し、政治的な分断が予算や債務上限交渉の停滞を招く懸念にも言及しました。
この発表を受け、米金融市場は即座に反応しました。30年物米国債の利回りは5.1%まで上昇し、年初からの上昇幅は1ポイントを超える水準に達しました。また、ダウ工業株30種平均は一時700ドル以上下落し、S&P500やナスダック総合指数もそれぞれ1〜2%の下落を記録。為替市場でもドルはユーロや円に対して売られ、ドル円は一時145円台まで下落しました。市場関係者の間では「格下げそのものよりも、今後の政局や債務交渉への不安感が意識された」との声が多く聞かれています。
格下げは織り込み済みも、信用低下は拭えず。
今回のムーディーズの判断は、完全なサプライズではありませんでした。実際、三大格付会社のうち、S&Pは2011年に、フィッチは2023年にそれぞれ米国債を「AAA」から「AA+」へ格下げしており、「いつかはムーディーズも追随するだろう」という見方は以前から存在していました。市場の一部では、すでにこの動きを織り込んでいたとの分析もあります。
しかし、三社すべてが「最高評価」を撤回したという事実は、象徴的な意味合いが強く、市場や国際社会に与える心理的なインパクトは小さくありません。信用格下げは、国債という政府の借金に対する信認の低下を意味し、将来的な調達コストの上昇につながる可能性があります。すでに国債利回りは上昇しており、これは財政の利払い負担を重くするだけでなく、政府によるインフラ投資や社会保障支出などにも影響を及ぼすことが懸念されています。
また、国債の利回り上昇は住宅ローン金利や企業向け融資金利にも波及し、家計や企業の資金調達コストを押し上げるリスクがあります。このような負担増は、個人消費や企業投資の抑制要因となりかねず、米国経済全体の減速を招く恐れもあると指摘されています。
かつては「絶対的な安全資産」として世界中から信頼されていた米国債ですが、その地位は揺らぎ始めています。IMFや各国の中央銀行が保有する米国債の比率にも変化が生じる可能性があり、国際的な資金の流れに長期的な影響を与えるかもしれません。
こうした中、複数のエコノミストや専門家からは「財政再建と政策の安定性が急務だ」との声が上がっています。ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストは、「今後さらに格下げが進むことを避けるためには、超党派による歳出改革と増収策の議論が必要だ」と述べています。また、シンクタンクのブルッキングス研究所は「債務上限問題を政治の道具とせず、持続可能な財政運営の枠組みを設計することが、国際的な信頼を回復する唯一の道」と提言しています。
今後の米国経済と金融市場の安定性は、政府の対応次第といえるでしょう。市場の注目は、夏以降の予算協議や2025年会計年度の財政方針に集まりそうです。
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