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トランプ関税、再び。最高裁の無効判決もブレーキにならず

【この記事のポイント(Insights)】

  •  米国は「強制労働対策」を大義名分にした追加関税案を公表した 
  • 「強制労働対策」を本気で解決しようとしているというよりも、最高裁で無効化された国際緊急経済権限法に基づく関税の代替案の意味合いが強い
  •  政権は敗訴後も新たな関税ルートを次々に模索しており、今後も高関税路線はなお継続する可能性が高い 

 

2026年6月、米通商代表部(USTR)は60の国・地域からの輸入品に対して10〜12.5%の追加関税を課す可能性がある新たな提案を公表しました。対象には日本、EU、韓国、インド、カナダなど米国の主要貿易相手国のほぼ全てが含まれています。

興味深いのは、その数カ月前に連邦最高裁がトランプ政権の関税政策の一部を無効と判断していたことです。普通に考えれば、最高裁の判断は関税強化路線への大きなブレーキに見えます。しかし実際には、政権は新たな関税案を次々に打ち出しています。今回のニュースは単なる「強制労働対策」ではありません。むしろ、最高裁判決後のトランプ政権がどのように関税政策を再構築しようとしているのかを示す出来事として読むべきでしょう。

最高裁が止めたのは「関税」ではなく「IEEPA」だった  

まず整理しておきたいのは、最高裁が2026年2月に何を否定したのかです。判決の対象となったのは、トランプ政権が2025年から利用していたIEEPA(国際緊急経済権限法)でした。この法律は本来、国家安全保障上の緊急事態に対応するための権限を大統領に与えるものです。トランプ政権はこれを根拠に、中国だけでなく幅広い国に対して追加関税を課していました。

しかし最高裁は、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と判断しました。重要なのは、最高裁が「関税は違法だ」と言ったわけではないことです。否定されたのはあくまで「IEEPAという法律を使って関税を課すこと」でした。この違いは極めて重要です。なぜなら、他の法律による関税権限まで否定されたわけではないからです。

実際、判決が出た同日、ホワイトハウスはIEEPAに基づく関税の終了を命じる一方で、別の法律である1974年通商法122条(Section 122)を使った新たな10%関税を発表しました。つまり政権の反応は、「関税をやめる」ではなく、「別の法律を使う」だったのです。

「強制労働対策」は目的ではなく大義名分 

そこで白羽の矢が立ったのが「強制労働」です。非倫理的であり、取り締まりを強化すべきという国際的な合意のある強制労働を根拠にされると、最高裁も否定しにくくなります。

このアイデアのもと、USTRは「強制労働によって生産された商品の輸入を十分に禁止しているか」に関する調査を3月に開始。米国の輸入の99.4%を占める60の経済圏のうち、54の経済圏は制度自体が不十分、6の経済圏は制度はあるが執行が不十分と結論付けました。

ただし、この論理には反論もあります。例えばEUは2024年に強制労働製品の市場流通を禁止する規則を採択しており、2027年から本格施行される予定です。それにもかかわらず今回の対象国に含まれています。このためEU側は、「まず関税ありきで、後から理由を探しているように見える」と批判しています。

ブルッキングス研究所なども、今回の調査は人権問題そのものより、最高裁判決後の新しい関税の法的根拠づくりという側面が強いと分析しています。人権問題は重要なテーマですが、今回の措置を理解するうえでは、「なぜ今この調査が始まったのか」という政治的・法的背景も同時に見る必要があるでしょう。

結局どんな関税率になるのか? 

今回のニュースを読んだ人の多くが心配しているのが、「結局、関税率はどれくらいになるのか」という点でしょう。

現在の状況を整理すると、IEEPA関税は最高裁判決によって終了し、代わって150日限定のSection 122関税が導入されています。これは、「大規模かつ深刻な国際収支赤字」を根拠とする関税で、一律10%の関税が課されます。

今回の強制労働関連の関税案は、Section 301に基づく新たな措置として提案されています。USTRの提案文書では、制度自体が不十分とされた日本・韓国・インド・英国・中国などに12.5%、制度はあるが執行が不十分とされたEU・カナダなどに10%の追加関税を課す案が示されました。

米国の通商実務では、異なる法的根拠による関税は累積されるケースが一般的です。そのため、「既存の有効な関税体系に新たな関税を追加する」という構造になる可能性が高いと考えられています。ただし、現在適用されているSection 122の10%関税との関係はまだ最終決定されていません。そのため、「10%にさらに12.5%を上乗せする」と断定するのは時期尚早です。

また、Section 122は7月24日に失効するため、仮に上乗せとなった場合もその期間はごく短期間になる可能性が濃厚です。

注目すべきは税率ではなく政権の覚悟

投資家目線で本当に重要なのは、関税率が10%なのか12.5%なのかではありません。むしろ、最高裁に敗訴した後の政権の行動から、トランプ政権は賛否両論の関税政策をやり抜く固い覚悟を持っていると読み取れることです。

もし政権が関税政策を失敗だと考えているなら、最高裁判決は絶好の撤退理由になったはずです。しかし実際には、2月にはSection 122関税が導入され、3月には強制労働301調査と過剰生産能力301調査が開始されました。さらに6月には強制労働関税案とブラジル向け25%関税案が相次いで公表されています。

財務長官スコット・ベッセント氏は判決直後、「最終的には(無効になった関税率と)同程度の関税水準に戻るだろう」と発言しました。またUSTR代表のジェイミソン・グリア氏も、「今後数週間でさらに複数の301措置を発表する」と述べています。

これらの発言から読み取れるのは、政権が敗訴を政策転換の契機としてではなく、関税制度の再設計の契機として捉えていることです。言い換えれば、「関税をやめる方法」ではなく、「関税を続ける方法」を探しているように見えます。

高関税路線は揺るがない 

政権が「最高裁が一つのルートを止めても、別のルートを見つける」という姿勢である以上、今後も関税強化路線は継続するでしょう。特にSection 301は、長年にわたり中国向け関税の法的根拠として使われてきた制度であり、法的な耐久性はIEEPAより高いと考えられています。

もちろん無制限ではありません。公聴会やパブリックコメント、行政記録の作成、裁判所による審査などの手続きが必要になります。また、インフレ再燃や中間選挙での逆風が強まれば、政治的な修正圧力も生じるでしょう。

それでも確実に言えるのは、政権が最高裁判決を「関税政策の終わり」ではなく「再設計の起点」と捉えているということです。投資家が注目すべきは、今回の税率が10%か12.5%かではなく、関税が一時的な非常措置から恒常的な国家戦略へと位置づけを変えつつある可能性のほうでしょう。最高裁判決は一つの扉を閉じました。しかし政権はすでに、次の扉に手をかけています。

 


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