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アメリカの移民制限措置「タイトル42」が失効。懸念された難民急増は回避か?

パンデミックのどさくさで発動された古めかしい措置

2023年5月11日、トランプ前大統領が発令した移民制限措置「タイトル42」の有効期限が切れました。これにより、移民希望者が国境に殺到するのではと懸念されていましたが、現在のところそうした現象は起きておらず、むしろ減少傾向にあると報告されています。

この措置は、1944年に成文化された合衆国法典42編(公衆衛生サービス法)の265条を根拠にした措置ですが、移民に関する文脈では単に「タイトル42」と呼称されてきました。265条では、国外から伝染病が持ち込まれる懸念があるとき、公衆衛生長官の判断と大統領の承認のもと、人や財産の出入りを制限する権限を持つと定められています。しかしこの措置は、成文化前の1929年に発動されたのを最後に、100年弱の期間に渡って発動実績がありませんでした。

かねてから移民排斥発言を行っていたトランプ大統領は2020年、パンデミック対策という大義名分のもと、この古めかしい条文を引っ張り出し国境警備を強化しました。

タイトル8も人道的とは断言し難い

タイトル42の失効後の移民制限は、パンデミック以前に戻り、タイトル8(合衆国法典8編:外国人と国籍)に基づいて行われます。最大の変更点は、移民希望者を受け入れないときの対応がタイトル42では「expulsion(追放)」だったのに対し、タイトル8では「deportation(国外退去)」となることです。

「expulsion(追放)」は、迅速かつ一方的に行われます。許可なく入国した人々はほとんどの場合は数時間以内に元の国(多くはメキシコ)へと送り返されます。その間に、亡命申請をしたり移民裁判官に訴えを起こすことはできません。一方、「deportation(国外退去)」では、移民希望者には亡命申請を提出する権利が与えられ、審査中の米国に滞在できます。

しかし、タイトル8が移民希望者に優しいかと言うと、一概にそうは言いきれません。タイトル8では、審査にかかる時間が長くなります。移民希望者にとっては、結果を待つ間は生活基盤を整えることができず、機会損失が生じる可能性があります。また、タイトル42は一方的な排除を行う反面、排除された人々に罰則は与えられませんでした。タイトル8では、厳格な審査を行った上で、違法性が認められた場合には数年間の再入国の禁止などの罰則が設けられます。

このため、タイトル42の失効とタイトル8の再有効化については、右派のみならず左派からも批判の声が上がっています。今後の米国経済や選挙動向に大きく影響するであろう移民の流入の傾向に、要注目です。

 


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