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エネルギー価格を不安定化させ得る、OPECプラスの原油減産

Highlights

  • OPECプラスが、11月からの日量200万バレルの原油減産を決定
  • 原油価格が高騰の兆しを見せているが、OPECの事務局長は自分たちの責任を否定
  • バイデン政権は備蓄放出や外交で対処するも、効果は見込めず

OPECプラスの石油減産決定で原油先物価格が反応

10月5日、OPECプラス(石油輸出国機構加盟国と、ロシアなどOPEC非加盟の産油国からなるグループ)は、11月から原油を1日あたり200万バレル減産することを決定しました。これは、原油価格の上昇を狙ったもので、世界のエネルギー価格にどのような影響を及ぼすか注目が集まっています。

歴史的なインフレに苦しむアメリカ、ウクライナ情勢によりロシアからのエネルギー供給が激減している欧州はこれまで、OPECに対し原油供給を増やすよう働きかけてきました。OPECはそれに応じるように2021年年初から段階的に増産を行ってきましたが、世界の景気減速により原油需要も減少、取引価格が下落したことで方針を転換。今回の減産決定に至りました。
この決定に原油先物価格は敏感に反応。5日の北海ブレント先物は1バレル=93.37ドルで終了し、約1.7%上昇しました。

今後の世界経済を占う上で、現在の原油価格は、なんとも絶妙な水準にあると言えます。この価格は、昨年10月の83ドル水準からは上昇しているものの、インフレ率としては適正範囲内です。この価格が維持できれば、利上げの手を緩めることができ、結果として経済の減速も緩和できるでしょう。しかし、今年6月の原油価格は120ドル水準だったことを考えると、OPECプラスがこの価格に満足せず、減産を長期化させてさらなる値上がりを引き起こす可能性もあります。この場合、各国は利上げを続けざるを得ず、結果世界経済の減速は免れません。

 

OPEC事務局長は、原油価格高騰はOPECの責任外と主張

原油価格は世界経済を大きく左右するため、OPECプラスの決定を身勝手だとする意見もあります。市場原理を尊重せず、価格をコントロールしようとしていることに対する批判の声も少なくありません。

しかし、OPECのハイサム・アルガイス事務局長は以前から、原油価格の高騰の責任を産油国に求めるのは筋違いであるという考えを主張してきました。今回の減産発表に至る前、8月中旬の会見でも、「現在、ガス・石油業界に生じている価格上昇の本当の原因は、OPECの責任範囲を越えたところにある」と発言。エネルギー開発への世界的な投資不足が根本原因だと指摘していました。

こうした発言の背景には、ヨーロッパを中心に急速に進む化石燃料から再生可能エネルギーへの移行への懸念があります。ハイサム氏は同日の会見で、世界が永遠に化石燃料で生きていくとは言わないと前置きしつつ、「(今の時点で)化石燃料に投資するつもりがないと言うのであれば、一晩でA地点(化石燃料主体)からB地点(再生可能エネルギー主体)に移動しなければならないということだ」とし、現実的な判断として化石燃料開発への投資の必要性を説明しました。

石油価格高騰の背景にOPECの減産発表があるのは間違いありません。一方で、欧米諸国が開発投資を行い、OPECへの依存度を下げていれば価格への影響が抑えられていたことも事実。他に有望な供給元がないこともあり、粘り強く交渉する以外にできることがないという状況に追い込まれています。



バイデン政権の打ち手は「備蓄原油放出」「サウジとの関係強化」「イラン核合意」

こうしたなかで、アメリカが取っている打ち手は主に3つです。

1つ目は、備蓄原油の開放。バイデン政権は、2021年11月から現在まで大規模な備蓄放出を繰り返してきました。ピーク時には7億2662万バレルに達した緊急原油在庫は、今や9月9日時点で4億3410万バレルとなり、1984年10月以来、約18年ぶりの低水準となりました。しかし、現在のところ効果は芳しく無く、米国内のガソリン価格は高値で推移し続けています。

2つ目は、OPEC最大の産油国であるサウジアラビアとの関係強化。7月にはバイデン大統領自身がサウジアラビアを訪問し、安全保障や経済協力に関する話し合いを行うなど、良好な関係の構築を図っています。

これまで、バイデン政権とサウジアラビアの関係は良好ではありませんでした。同国のムハンマド皇太子によるジャーナリスト殺害事件など、倫理的な課題が多いサウジに対して、制裁の意向を示していたためです。今年に入って一転、歩み寄りの姿勢を見せている背景に、エネルギー確保の思惑があるのは間違いありません。しかし現状、関係は良くなっているものの明確な和解には至っておらず、原油増産への動きもありません。

3つ目は、イランとの核合意の再締結です。これは、イランの核兵器開発を大幅に制限することを条件に、同国への経済制裁を段階的に解除する合意です。2015年7月に、イランと6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)が締結しましたが、アメリカはトランプ政権下の2018年にこの合意を離脱しています。核合意が再び締結されれば、イランからのエネルギー輸入が可能になるため、原油不足と価格高騰が大幅に解消する可能性があります。

しかし、イスラエルとの間に緊張関係があるイランが、核武装の放棄に関して積極的な姿勢を示さないため、再締結の見込みは低いと見られています。

アメリカが単独で実行継続することのできる1つ目の策を除けば、外交問題ということもあって、近日中に成果を発揮する見込みは薄いでしょう。つまり、エネルギー価格はアンコントローラブルで、OPECプラスの判断や世界経済の体力次第です。軟着陸できるかもしれませんし、高騰か暴落か、どちらかに極端に振れる可能性もあるのです。

不動産市場への影響という観点では、エネルギー価格の動きによって、新築と中古のどちらに人気が集まるかが変わってきます。エネルギー価格が高止まりすると、重く大きな建材を運んでつくる新築物件の価格は上昇します。これが住宅ローン金利の上昇と相まって住宅着工件数は軟調に推移し、その分、すぐに住むことができる中古住宅や賃貸アパートに人気が寄ってくるものと考えられます。反対にエネルギー価格が落ち着けば、新築の着工件数も伸びるため、人気のばらつきは緩和されていくと考えられます。このトレンドが、物件価格や賃貸利回りに影響してくるため、状況を注視することをおすすめします。

 


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