1. 犯罪対策の非常事態措置として警察権を直轄。軍の導入も。
ドナルド・トランプ大統領は8月11日、首都ワシントンD.C.の警察権を連邦政府が直接掌握する非常事態措置を発表しました。ホワイトハウスによれば、この措置は1973年制定の「D.C.ホームルール法」に基づき最大30日間適用されるもので、同法の援用は史上初となります。トランプ氏は会見で「首都を犯罪と無法状態から救う歴史的行動だ。きょうはD.C.の『解放の日』だ」と述べ、同時に約800名規模の国家警備隊(州兵)を即日展開すると表明しました。必要に応じて「軍も導入する」と強硬姿勢を示しました。
発表に先立ち、政権は週末から既にFBI、DEA、連邦保安局など複数の連邦捜査機関の職員計450名超を市内に投入し、銃器不法所持や窃盗、不法移民の拘束などを行っていました。正式発表後、その夜から州兵部隊が街頭に姿を見せ、翌日までに市内巡回や連邦資産警備を開始しました。ホワイトハウスは「24時間で23人を逮捕し、違法拳銃6丁を押収した」と成果を強調しています。背景としてトランプ氏は「D.C.は世界有数の危険都市」とし、直前に発生した元政府職員襲撃事件などを挙げましたが、この点には疑問の余地があります。実際には同市の暴力犯罪は2024年に過去30年で最低水準となり、2025年も減少傾向にあるからです。司法長官パム・ボンディ氏は「市の犯罪統計が操作されていないか調査中」と述べましたが、複数の専門家や地元メディアは「犯罪危機は存在しない」と指摘しています。
2. 政界・メディアからは地方自治を侵害する独裁的判断だと非難が続出
この前例のない措置は、D.C.市長ムリエル・バウザー氏(民主党)をはじめ、政界やメディアから激しい反発を招きました。バウザー市長は「不安を覚える前例のない措置だ」と当初は抑制的でしたが、州兵の展開後は「オーソリタリアン(独裁的)な権力行使」と非難し、住民集会で「自治権を守るため立ち上がろう」と呼びかけました。地元選出のエレノア・ホルムズ・ノートン下院代議員は「D.C.自治への歴史的攻撃」と糾弾し、D.C.州昇格の必要性を訴えました。一方、共和党幹部は「首都が犯罪で破壊されるのを許さない」とトランプ氏を擁護しました。マイク・リー上院議員はD.C.ホームルール法撤廃法案を提出し、自治そのものの見直しを主張しています。
名指しされたシカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスなど他都市の市長も「恐怖を煽る政治的パフォーマンス」と反発しました。民主党知事らも「州外からの越権行為は認めない」とけん制しています。法学者や人権団体は「地方自治と連邦制の原則を揺るがす危険な前例」と警告し、30日超の統制延長は法的根拠を欠くとの見解を示しています。今回の措置は、犯罪対策を名目に大統領権限を拡張し、都市部の民主党政権に圧力をかける試みとの見方も強いです。今後、連邦議会や司法がどのように対応するかによって、米国の統治構造や政治力学に長期的な影響を及ぼす可能性があります。
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