1. 歴史的な供給増に歯止め、空室率が2021年以来初めて低下
米国の賃貸住宅市場に、長く続いた需給悪化が止まり始めた可能性を示すデータが出ました。
米賃貸情報サイトのアパートメント・リストによると、2026年7月の全米家賃中央値は1,388ドルでした。前月比では0.2%上昇し、6カ月連続のプラスです。空室率は2月の7.3%をピークに7.2%まで下がりました。同社の空室率が低下するのは2021年末以来、約4年半ぶりです。ただし、家賃はなお前年を下回り、より広範な政府統計では空室率が横ばいです。
ここでいう空室率は、主に50戸以上の安定稼働済み集合住宅を対象としています。新築物件の初期募集や一戸建て賃貸、小規模集合住宅の動きをほぼ含まないため、米国の賃貸住宅全体を示す数字ではありません。
それでも、需給改善の兆候はほかの民間データにも表れています。不動産情報会社リアルページによると、2026年4〜6月期に新たに入居された集合住宅は18万7,000戸を超え、同期に供給された約7万7,700戸を大きく上回りました。入居率も95.5%へ上昇し、2四半期連続で改善しています。
背景にあるのは、歴史的な供給ラッシュの収束です。パンデミック期の家賃急騰を受けて集合住宅の開発が増え、2024年には60万8,000戸が完成しました。これは1986年以来の高水準です。その後、高金利や建設費の上昇、融資環境の悪化によって新規開発が減速し、2025年の完成戸数は前年比20%減の48万8,000戸となりました。需要が急増したというより、大量供給の波が峠を越え、既存の空室が徐々に消化され始めたとみるのが適切です。
2. 回復は「時間差」あり。家賃優遇策と地域差の確認が重要
一方で、底打ちを断定するには早いことを示す数字もあります。米国勢調査局が一戸建てや小規模物件を含む全賃貸住宅を対象に算出した2026年4〜6月期の空室率は7.3%で、前期と変わりませんでした。リアルページの集計でも、直近1年間では需要27万1,300戸に対し、供給は34万200戸と、なお供給超過です。
家賃の動きも力強い上昇には至っていません。アパートメント・リストの7月家賃は前年比1.1%下落しました。さらに、リアルページによると24.6%の物件がフリーレントなどの家賃優遇策を提示しています。表面上の募集家賃が維持されていても、優遇分を差し引いた実効家賃は低い可能性があります。
地域差も鮮明です。家賃はサンフランシスコで前年比9%超、サンノゼで6%超上昇する一方、供給が集中したサンアントニオでは5.2%、オースティンでは4%前後下落しています。供給制約の強い沿岸部や中西部の一部が回復を先導し、南部・山岳部はなお調整が続く「時間差回復市場」といえます。
日本人投資家にとって重要なのは、全米平均の小さな変化をそのまま物件取得の判断材料にしないことです。募集家賃だけでなく、優遇策を含む実効家賃や成約までの日数、サブマーケット単位の建設中戸数と竣工予定を確認する必要があります。また、今回の改善は主に大規模集合住宅で確認されたもので、一戸建て賃貸や小規模物件へ単純に当てはめることもできません。米賃貸市場は「回復した」のではなく、「回復の条件が整い始めた」段階にあります。
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