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“家族=持ち家”は終わるのか? アメリカで進む「マイホーム離れ」

【この記事のポイント(Insights)】

  • マイホーム離れは「買えない」ではなく「持たない合理性」の問題へ移行している
  • Build-to-Rent(家族向け賃貸)の供給拡大が、「所有しない家族」を現実の選択肢に変えた
  • 住宅は資産からサービスへと性格を変え、米国家計の構造にも影響を与え始めた

 

米国ではいま、「家族を持ったら家を買う」という前提が静かに崩れ始めています。これは単なる住宅価格や金利の問題ではありません。そもそも「家を持つこと自体が合理的なのか」が問われ始めているのです。

興味深いのは、全体の持ち家率自体は大きく崩れていない点です。米国国勢調査でも、2022年以降の持ち家率はそれ以前と大きく変わらない65%前後で推移しています。

それでもなお「マイホーム離れ」が語られるのは、“誰が持つか”と“なぜ持つか”が変わり始めているからです。 本記事では、その構造変化を整理します。

買いにくく儲かりにくい市場へ 

マイホーム離れが語られるとき、原因としてまず挙げられるのはやはり経済環境です。2022年以降の急激な利上げにより住宅ローン金利は大きく上昇し、住宅価格も高止まりを続けました。頭金や固定資産税、保険料といった付随コストも増加し、住宅取得のハードルは明確に上がっています。

加えて、売却益を得るための難易度も上がりつつあります。米国では長らく、持ち家は家計にとって最大の資産であり、資産形成の中核を担ってきました。人口増や経済成長の後押しにより、それほど目利きせずとも、購入時より高く売れる状況が長く続いていたからです。しかし現在、住宅価格の変動には地域によって大きな差があり、値崩れの傾向が見られるエリアも出てきました。加えて、保険料や維持費の上昇、自然災害リスクの高まりなど、「保有コストの不確実性」も増しています。こうした状況では、住宅を資産として持つこと自体がリスクになり得ます。

結果として、資産形成と居住を切り分ける動きが強まっています。居住は賃貸で柔軟に確保し、資産は流動性の高い金融商品で持つという考え方です。この変化は、家計のバランスシートの構造そのものを変えつつあります。

「買えない」から「買わない」へ 

さらに重要なのは、市場環境だけでなく、需要側の生活スタイルや価値観、リテラシーも大きく変化している点です。

例えば、共働き世帯の増加やキャリアの流動化は、居住地を自由に選びたいというニーズが生まれました。転職や転勤に柔軟に対応できること、子どもの教育環境を状況に応じて選び直せることなど、「動けること」そのものが価値として認識されています。こうした文脈では、住宅を所有することは一種の制約にもなります。長期の住宅ローンは生活の選択肢を縛り、売却や住み替えには時間とコストが伴います。そのため、「まずは借りる」という行動が合理的な初期選択として定着しつつあります。

マイホーム=アメリカン・ドリームというステレオタイプも今や万人が望むものではありません。従来は、郊外に持ち家を構え、長期的に安定した生活を送ることが成功の象徴とされてきましたが、現在は柔軟な働き方や移動の自由、ライフステージに応じた住み替えといった要素が重視されるようになっています。成功の定義が「所有すること」から「選択肢を持つこと」へとシフトしているとも言えます。

さらに、金融リテラシーの向上も影響しています。資産形成の手段が住宅に限られない中で、株式や投資信託といった金融資産に資金を振り向ける方が効率的だと考える層も増えています。住宅は必ずしも「持つべき資産」ではなく、「利用するサービス」として捉えられ始めているのです。

これは、持ち家の価値が完全に失われたことを意味するわけではありません。むしろ、持つか持たないかを状況に応じて選べること自体が、新しい豊かさの形として認識され始めているのです。

物件開発のトレンド「Build-to-Rent」

もう一つの重要な変化は、供給側の進化です。これまで米国では、賃貸住宅は単身者や都市居住者向けというイメージが強く、家族世帯は持ち家に移行するのが一般的でした。

しかし近年、戸建てを最初から賃貸用として開発する「Build-to-Rent」と呼ばれるモデルが急速に拡大しています。これらの物件は、学区や庭、ガレージといった家族生活に必要な要素を備えており、従来の持ち家と遜色ない居住環境を提供します。

この変化は決定的です。なぜなら、「賃貸では家族生活が成り立たない」という制約が取り払われたことで、所有を前提としないライフスタイルが現実の選択肢になったからです。加えて、機関投資家が戸建て賃貸をポートフォリオとして保有・運用する動きも広がり、住宅は個人の所有物から、運用対象となる資産へと性格を変えつつあります。

市場構造の変化は投資家にとってチャンス? リスク?

マイホーム離れは、一時的なトレンドでしょうか? 不可逆な変容でしょうか?

今後、金利が低下すれば再び持ち家志向が回復する可能性はあります。ただし、いくつかの要因は簡単には元に戻りません。なぜなら、Build-to-Rentをはじめとする供給構造はすでに形成されており、一度整った市場は簡単には消えません。また、価値観の変化も不可逆的な側面を持ちます。柔軟性や流動性を重視する生活様式は、経済環境が変わっても一定程度維持される可能性が高いでしょう。こうした点を踏まえると、現在の持ち家離れは景気循環ではなく、構造変化の入り口にあると考えるのが自然です。

この変化は、不動産投資の前提にも影響を与えます。特に注目されるのは、戸建て賃貸市場の拡大です。これまで分散していた個人所有の住宅が、機関投資家の手に集約されることで、新たな投資対象としての魅力を持ち始めています。また、マルチファミリーとの競合関係や棲み分けも重要なテーマとなります。家族層がどのタイプの住宅を選ぶのかによって、地域ごとの需給構造は大きく変わります。

本質的には、「誰が住宅を所有し、誰が利用するのか」という役割分担が変わりつつあると言えます。この視点は、今後の市場を読み解くうえで欠かせないものになるでしょう。

 

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