1. 総額約1.2兆ドルの構想、対象者も財源も未確定
トランプ大統領は2026年9月9日、ダラスで開かれた共和党の大会で、11月3日の中間選挙で同党が上下両院の多数派を維持した場合、米国籍を持つ成人に1人5,000ドルを支給する考えを示しました。「トランプ配当」と名付けた構想ですが、給付が決まったわけではありません。
「配当」という呼び名には、経済運営の成果を国民に還元するというメッセージが込められています。しかし、企業の株主配当になぞらえた政治的な表現であり、国の財政に分配可能な余剰が生まれたという意味ではありません。AP通信によると、バンス副大統領は関税収入の活用を示唆するとともに、高所得者を対象外とする可能性にも言及しました。「全成人」という対象範囲さえ、現時点では定まっていないのです。
ロイターは、対象となる成人の米国民を約2億4,000万人とした場合、総額は約1.2兆ドルになると試算しています。これは成立した予算額ではなく、人数に5,000ドルを掛けた概算です。同通信は、関税収入だけでは賄えず、実施には議会の承認も必要だと説明しています。
共和党内の意見も割れています。バーニー・モレノ上院議員は選挙後の法案化に意欲を示した一方、デービッド・シュワイカート下院議員は、金利上昇などを通じて働く人々にかえって負担を与えるとして反対しました。家計にお金が届くこと自体は歓迎されても、その費用を誰がどう負担するかとなれば、話は変わります。
2. 家計への支援が、物価と住宅ローンの負担を増やす可能性
給付には、日々の支払いや消費を支える効果が期待できます。ただし、景気が低迷しているときと、企業が生産やサービスの提供を増やしにくいときでは、結果が異なります。需要の拡大に供給が追いつかなければ、増えた購買力の一部は値上がりに吸収されるためです。サンフランシスコ連銀の研究も、財政支援によるインフレ圧力は、経済にどれだけ余力があるかに左右されると指摘しています。
今回の構想で懸念されるのは、この需要刺激に借り入れの増加が重なることです。他の歳出削減などで費用を相殺せず、国債発行で賄えば、財政赤字が膨らみます。国債の供給増に加え、投資家が将来の物価上昇を警戒して高い利回りを求めれば、長期金利に上昇圧力がかかります。これは実施された場合に想定される経路であり、この公約によって既に金利が上がったと断定することはできません。
米国不動産市場との関連という点では、住宅ローンへの影響が懸念されます。フレディマックの9月10日公表分では、30年固定金利の平均は6.76%と、1年前の6.35%を上回っています。この水準から借り入れコストがさらに上がれば、住宅購入者の予算や、投資家が物件を売却する際の買い手の資金調達力にも影響する可能性があります。現金給付で家計を支えても、購入時のローン負担が重くなれば、その効果が一部打ち消されかねません。
もっとも、対象者を絞る、給付規模を縮小する、他の支出を減らすといった設計次第で影響は変わります。実施時に景気が悪化していれば、物価への圧力が弱まることも考えられます。今後は法案化の有無に加え、対象者と財源、給付時期が焦点です。「5,000ドルを配る」という金額だけでなく、それがどの程度の追加需要と政府借り入れを生むのかが、物価と金利を考えるうえでの判断材料になります。
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