Highlights
- これまでは資産価値が乏しいとされてきた “山林資産”
- しかし、世界的な木材不足の影響で今、山林の価値が高まりつつある
- 大手企業が山林を取得する動きも出てきている
資産価値が乏しかった山林資産に変化の兆しあり?
山を保有している地主が多いことからも“資産家の象徴”として見なされがちな山林資産。
しかし、林業の収益性の低下や、都市部への人口集中などの理由から、資産としての山の需要は大きく減少。実際のところ、遺産相続で山の権利を得てもこれといった活用法がなく、買い手もなかなか見つからないため、持て余してしまう人も多いようです。相続税などの負担を避けるために、自治体や個人に山を無償で譲渡する人も増えているなど、山林資産は半ば厄介者扱いされているような現状も存在します。
しかし、そんな山林資産の価値が今、世界的にジワジワと高まりつつあることをご存じでしょうか?
コロナ禍直後から、躍進を見せていた林業・木材分野
グローバル経済の動向を図る指標の1つとして、国連貿易開発会議が発表する「海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)」が挙げられます。
この「海外直接投資」を簡単に説明すると、企業が自国外に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、海外工場の建設といったプロジェクトの数を産業ごとにジャンル別で集計したもので、各産業の成長性を測る判断材料にもなります。
2020年の全産業の海外直接投資のプロジェクト数は、2019年から17.4%減少しており、世界的に大幅な落ち込みを見せました。ほとんどすべての産業セクターでプロジェクト数の減少が見られましたが、そうした中で躍進を遂げている産業もあります。それが林業・木材分野です。
林業・木材分野の投資件数は2019年は32件だったのに対し、2020年には41件に増加。また、2年間に発生した73件のプロジェクトのうち、64.4%が新規プロジェクトという点も注目に値するポイントです。
プロジェクトの“幅”も広く、販売、管理、マーケティングなどさまざまなビジネス領域に投資が行われていますが、最大の投資が行われたのが製造領域で、実に53件もの投資が行われています。内訳としては、ベニヤシートと木質パネルの製造が26件、コルクや編み加工品などの特殊部材が17件、ベーシックな木材が15件、床材が10件、その他が4件という数字に。
こうした数字を見ても2019年から2020年にかけて、世界規模の木材増産が行われていたことが読み取れますが、そんな矢先に訪れたのが、コロナ禍を背景とするウッドショックでした。これによって木材の需要と供給のバランスが大きく崩れ、木材価格が上昇。コロナ禍が落ち着きを見せ始めている現在も、ウッドショックは長期化しており、この傾向がさらに続くとすれば、木材を生み出す山林資産の価値が大きく上昇していく可能性があります。
木材不足に追い打ちをかけるウクライナ危機
また、世界的木材不足の傾向に追い打ちをかけているのが、ウクライナ危機です。
現在、各国から経済制裁を課されているロシアとベラルーシは世界最大の針葉樹輸出国。ウクライナもそれに続く生産量を誇っていましたが、現在は国防のために木材輸出どころではない状況に陥っています。この3カ国は、2021年の世界の木材貿易の4分の1を占めていたというデータもあり、ウクライナ危機の影響の大きさは計り知れないと言えるでしょう。
木材の需給バランスが今後ますます崩れていくのは間違いなく、第二次ウッドショックの発生を懸念する声も多く挙がっており、それを裏付けるように木材価格は上昇の一途を辿っています。
このように、木材不足は世界規模で対策を打たなければならない喫緊の課題。また木材価格の高騰は不動産の新築やメンテナンスのコスト増にもつながるため、不動産投資家目線で見ても大きなリスク要因だと言えるでしょう。しかし逆に“山林の価値が高まる”という意味では、これを追い風と捉える山林保有者も多く存在することが見込まれます。
大手企業が海外の山林を購入する動きも
これまで見てきた“木材価格の高騰”とは違う文脈でも、山林資産の価値が上昇していくと判断するに値する材料があります。
実は今、日本の大手商社が競い合うように海外の山林を取得しているのです。三井物産はオーストラリア、住友商事はニュージーランド、丸紅はインドネシアといった国を中心に、山林の取得・管理を推進しています。
これらの投資はもちろん、「木材製造のため」というのが大きな名目としてありますが、その裏には炭素クレジット取引に関する算段もあるものと推察されます。
地球温暖化をはじめとする気候変動対策として、日本をはじめとする世界各国でカーボンニュートラル実現に向けた動きが本格化していますが、重工業など一定以上の炭素排出が避けられない産業もあり、そうした産業に対しては排出権を売買する仕組みが必要になってくるでしょう。そのような仕組みが整備されたとき、膨大な炭素を吸収してくれる山林は、大きな権利収入を生み出す資産になり得るかもしれないのです。
先述した大手商社をはじめとする大企業が購入を進めているのは大規模な山林ですが、その影では個人投資家もまた小規模な山林や野山を買い集めている動きもあります。その中に、日本の山林も有力な購入候補として挙がっていると考えてもおかしくはありません。これまでは二束三文だった山林の価値が急上昇する日も、もしかしたら近いのかもしれません。
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