【この記事のポイント(Insights)】
- トランプ関税の再導入により、米国内で大規模な工場建設ラッシュが起きている。
- 工場ができると人口が流入し住宅需要が急増する一方、建材や人手不足で供給は追いつかない。
- 住宅価格の高騰は地域差があり、工場立地や政府の住宅政策を見極めることが重要となる。
トランプ関税は、製造業の米国内回帰を加速させています。企業の工場新設や雇用創出といった歓迎すべき側面がある一方で、思わぬ副作用も現れ始めています。その1つが、工場建設ラッシュに伴う住宅価格や家賃の高騰です。本記事では、その背景にある経済メカニズムを解き明かしつつ、住宅市場における変化の兆しを探ります。
トランプ関税により、米国内で工場建設ラッシュがはじまる
トランプ大統領が、海外からの輸入品に高い関税を課すと発表して以降。国内外の企業が対応に追われています。なかでも重大な取り組みの1つが、サプライチェーンを見直し、製造拠点を米国内に移すことです。これは、関税コストの回避だけでなく、サプライチェーンの安定確保や地政学リスクの軽減といった経営上の判断とも合致しています。
日本の企業でも、トヨタやホンダ、パナソニックなどが大規模な工場新設・拡張を進めています。さらに、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子、中国のCATLやBYD、ドイツのBMW、メルセデスといったグローバル企業も、米国での生産体制を強化。EVや半導体、電池などの分野で、テキサス、ジョージア、ノースカロライナ、アリゾナといった州を中心に、数十億ドル単位の投資が相次いでいます。
このような工場建設は、地元にとっては雇用が増えるという点で歓迎されるものです。しかしその裏で、地域の住宅市場に新たな歪みを生じさせているのです。
住宅価格高騰のメカニズム
工場建設ラッシュが住宅価格や家賃の高騰を招く背景には、住宅の"需要"と"供給"の両面からの圧力があります。
工場ができると雇用が増え、住宅需要も増加する
大規模な工場が新設されると、当然ながら多数の従業員が必要となります。彼らはその地域に住む必要があり、住宅需要が一気に高まります。さらに、工場の労働者を支える飲食店や小売、医療・教育・交通インフラといった周辺ビジネスも活性化し、二次的な雇用が生まれます。つまり、工場が地域にもたらす人口増は、単に従業員数にとどまらず、その数倍に膨れ上がるのです。
たとえば、テスラが2014年にネバダ州リノ近郊にギガファクトリーの建設を発表した際、その影響で周辺地域の人口が急増し、家賃や地価が大幅に上昇しました。この"テスラ効果"は、その後も他の地域で工場建設が進む際に繰り返されており、地域の住宅市場に大きなインパクトを与える事例として注目されています。
建設増により建材や作業員がそちらに奪い合われ、住宅供給が減少する
一方で、供給面からの圧力も無視できません。工場建設には多くの建設資材や熟練労働者が必要です。現在のアメリカでは建材価格が高騰しており、特に鉄鋼・アルミニウム・木材といった素材は価格の乱高下が続いています。さらに建設業界全体では人手不足が深刻で、住宅建設と工場建設が労働者を奪い合う構図となっています。
このような状況では、住宅開発プロジェクトが後回しにされ、工期が遅れ、コストが上昇し、住宅供給が滞る事態に陥ります。建材の大半を輸入に頼る住宅業界にとっては、トランプ関税そのものも住宅供給のコスト高要因となっており、構造的な供給難が進んでいるのです。
需要が増え、供給が減れば、価格は高騰する
需要と供給の両面から圧力がかかれば、価格の高騰は避けられません。住みたい人が増えても、住める家がなければ、買い手・借り手が限られた物件を奪い合うことになります。売買価格や家賃は上昇し、従来からその地域に住んでいた低所得層が住居を追われる事態も報告されています。
テスラの工場建設後、リノの家賃はわずか数年で26%も上昇し、空室率は1%台にまで低下しました。これは極端な例かもしれませんが、今後の工場建設ラッシュの地で同様の現象が起きる可能性は十分にあります。
必要になるのは、地域差や政府の対策を考慮した目利き
住宅投資を行う人にとってはチャンスとも言えますが、とはいえ「どこでも住宅価格が上がる」と短絡的に考えるのは危険です。住宅価格高騰が起きやすいのは、工場建設が集中しやすいエリアや、住宅供給力が弱い地域に限られます。
特に注目されているのは、テキサス州、ジョージア州、ノースカロライナ州、アラバマ州といった南部・中西部の"サンベルト"地帯です。これらの州は土地が広く、規制が緩く、州政府の企業誘致も積極的です。逆に、都市計画の規制が厳しく、土地が限られた地域では、住宅価格の上昇に拍車がかかる可能性があります。
また、別の視点で重要なのが、連邦政府や州政府が進めている住宅供給を支えるための政策です。たとえば、用途地域の緩和や補助金制度の拡充、公共住宅の建設促進などです。こうした取り組みが進んでいる地域では、供給不足が徐々に緩和され、住宅価格はそれほど上昇しないかもしれません。
今後、アメリカの住宅市場を見る上では、どの地域でどのような産業投資が進み、政府がどのような対応策を講じているかを、冷静に見極める目が必要です。工場建設は地域に繁栄をもたらす一方で、住宅市場に大きな影響を与えることを、私たちはあらためて認識するべき時に来ているのかもしれません。
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