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気候変動が米住宅保険ビジネスを破壊する? 主要保険会社たちのリスクへの向き合い方

【この記事のポイント(Insights)】

  • 気候変動による災害の激甚化で、米国の住宅保険支払額は年1000億ドルを超える水準が常態化している。
  • 再保険料の高騰や予測モデルの限界、州規制により保険会社の損益構造は崩れつつある。
  • 各社は保険料の大幅引き上げや高リスク地域からの撤退、新商品の開発で生き残りを図っている。

近年、米国では住宅保険を巡る「異変」が起きています。保険料の急騰、契約の打ち切り、そして大手保険会社の撤退……。その背景にあるのは、気候変動によって頻発・激甚化する自然災害の存在です。

本記事では、なぜ保険業界がここまで追い詰められているのか、その背後にある数字や要因、そして保険会社がどのように対応しているのかを詳しく解説。米国不動産に関心のある方に「リスクとリターンの再評価」のためのヒントを提供します。

山火事、洪水、トルネード……。多発する災害を受け、膨れ上がる保険金支払額。

日本でも毎年のように大きな自然災害が発生していますが、米国も同様で、この数年は大規模な自然災害が頻発しています。ハリケーン、山火事、洪水、そして突発的なトルネード……。いずれも一昔前の規模を大きく超える激甚災害となっており、保険業界にのしかかる負担は膨張の一途をたどっています。

実際、パンデミック以降でデータ集計が済んでいる4年間(2020〜2023年)は、いずれも自然災害による保険金支払額が年1000億ドルを突破する異常事態が続いています。これまで年1000億ドルを超える年は稀でしたが、それが連続するようになったことで、保険業界では「気候変動による新常態(ニュー・ノーマル)」として深刻に受け止められています。

たとえば2021年2月、米南部を襲った大寒波ではテキサス州などで大規模な停電や断水が発生し、約150億ドルの保険金支払いにつながりました。また同年夏には、ハリケーン「アイダ」によってルイジアナ州を中心に330億ドル規模の被害が発生。これに加えて、カリフォルニアやコロラドなどで大規模山火事が常態化し、2022年には全米で100万棟以上の住宅が山火事による高リスク地域に分類されました。

これら災害の影響で、米国全体の住宅保険金支払額は過去10年間で50%以上増加したとされており、業界の収益構造は根本から揺らいでいます。

追いつかない災害予測モデルのアップデート、保険金以外のコスト増大により損益悪化が深刻

このような事態に対し、本来であれば保険会社は保険料を上げてリスクに見合った収益を確保すればよいはずです。しかし、現実はそう簡単ではありません。

まず、前提となる「リスク予測モデル」が現実に追いついていないという問題があります。多くの保険会社が使用するモデルは、過去の気象・災害データをベースにしていますが、気候変動による影響は過去のパターンにない規模・頻度で進行しています。このため、これまで低リスクとされていたエリアが突如として大規模被害を受けたり、想定外の損失が発生することも珍しくありません。

さらに、損害保険会社は自社だけでリスクを抱えるのではなく、再保険(保険会社が自社で引き受けた保険リスクの一部を、別の保険会社に移転するしくみで、大規模な損害に備えるための「保険会社のための保険」)を活用していましたが、近年は再保険市場もパンク寸前。再保険料は2018年から2023年の5年間でほぼ倍増し、保険会社のコスト構造は一気に悪化しました。

こうした中で最も深刻なのが、「保険金以外のコスト」も跳ね上がっている点です。たとえば、災害時の請求処理に伴う訴訟コスト、インフレによる住宅修理コストの上昇、そして保険料の値上げを規制する州政府との摩擦などが、保険会社の利益を圧迫し続けています。

とくにカリフォルニアやフロリダといった災害リスクの高い州では、住民保護を目的に保険料値上げを厳しく制限しており、災害で赤字が出ても即座に料金に反映することが困難です。こうした「保険料は上げられないが、支払いは増える」という構造が、業界に構造的な赤字をもたらしています。

事実、米国住宅保険市場は2015年以降、黒字より赤字の年の方が多いという異常な収益構造に陥っており、今や収益を出すのが難しいビジネスになりつつあるのです。

保険料見直し、撤退、新商品開発……。各社の対応は?

このような状況下、保険会社たちの動きは多種多様です。

1.保険料の引き上げ

まず最も基本的な対応は、保険料の見直しです。2020年から2023年の間に、米国全体の住宅保険料は30%以上上昇しました。たとえば平均的な一戸建て住宅の場合、2020年の年間保険料が約1900ドルだったのに対し、2023年には2500ドルを超えたとのデータもあります。

特に災害リスクの高い地域ではその上昇幅が大きく、あるフロリダ州の郡では保険料が2倍近くに跳ね上がったという報道もあります。これは再保険料の上昇分が転嫁された結果でもあり、消費者負担は年々重くなっています。

2.高リスク地域からの撤退

もっとも衝撃的な動きは、大手保険会社が一部地域から“撤退”し始めたことです。

2022年、Allstateはカリフォルニア州における住宅保険の新規契約を停止すると発表。そして翌年には、業界最大手の一角であるState Farmも、同州での新規住宅保険の販売を停止しました。

撤退理由としては「災害リスクの急増」「再保険コストの高騰」「建築資材費の上昇」などが挙げられており、これ以上は州内で健全なビジネスが成り立たないと判断されたことが分かります。

フロリダ州やルイジアナ州でも同様の動きが進行中で、既に中小の保険会社を中心に10社以上が倒産したとの報道もあります。

3.新商品の開発とリスク細分化

一方で、こうした逆風の中でも新しい挑戦を試みる企業もあります。いくつかの保険会社では、パラメトリック保険(被害の有無ではなく、災害の発生そのものを基準に支払う保険)や、耐災住宅に対する割引商品など、気候リスクに特化した商品開発が進められています。

また、リスク評価モデルの高度化によって、地域や建物構造に応じた保険料の「超個別設定」が可能になりつつあります。これにより、リスクの高いエリアでは高額保険料を求める一方、比較的安全な地域では保険料を抑えるといった差別化戦略がとられています。

ただしこれも裏を返せば、「リスクが高すぎる地域ではそもそも保険が成り立たない」ことを意味しており、将来的には“保険不可能地帯”が拡大する懸念もあります。

住宅保険は「最後の砦」か、それとも…

米国において、住宅保険はもはや「当たり前に提供されるサービス」ではなくなりつつあります。災害リスクが高まる中で、住宅保険はかつてないほどの再編期を迎えています。

住宅を所有するということは、ローン返済だけでなく、災害に備えるコストも伴います。保険が機能しなくなれば、家を持つこと自体がリスクになりかねません。

保険業界の苦悩は、気候変動が経済の基本構造にまで影響を及ぼし始めていることの表れです。投資家にとっても、住宅市場を見る際には「保険が通るかどうか」「どこまでリスクを織り込むべきか」が、今後ますます重要な判断軸になっていくでしょう。

この変化をどう捉えるか。資産防衛の常識が変わりつつあります。

 


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