Highlights
- 年収の何年分で住宅が所得できるかを示す指標「PIR」で各国を比較
- PIRはアメリカが意外と低く、最も高いのはガーナという結果に
- PIRは地域の経済的・文化的背景に影響されやすい面もある
古今東西、あらゆる文化圏で無くてはならないものとみなされている住宅。日本では「人生最大の買い物」と言われ、何十年もローンを組むのが当たり前という価値観が一般的です。
ところが、住宅の取得しやすさは国によって大きな差があり、すべての国で人生を賭けた買い物というわけではありません。今回は、Price-To-Income Ratio(PIR)という指標を用いて、国ごとの住宅価格を紹介します。
「年収の何年分で家が買えるか?」を見ることができるPIR
ある国でどれだけ住宅取得が大変かを知るには「Price-To-Income Ratio(PIR)」という指標を見るのがおすすめです。このPIRは、あるエリアにおける住宅の購入しやすさを計るもので“住宅価格対収入比率”と訳されことが多い指標です。
難しそうに聞こえますが、簡単に言うと「年収の何年分で一般的な家が買えるか」を表す数字。計算式は「住宅価格の中央値 ÷ 年収の中央値」というごくシンプルなものです。例えば、ある国の住宅価格の中央値が500万円で、平均年収の中央値が100万円だとすると、
PIR = 500÷100 = 5
になります。一般的な世帯年収の5年分で一般的な住宅が買えるということがわかります。この計算では、平均値になるとごく少数の富裕層の数字に引っ張られてしまうため、中央値を用いているのがポイントです。
元Googleのソフトウェアエンジニアが立ち上げたグローバルデータベースサイト「Numbeo」には住宅価格に関する各国のデータが集約されています。2021年の中間発表データを見ると、日本のPIRは11.59となっており、約11年半分の年収で家が買えるということがわかります。もちろん、年収のすべてを住宅購入につぎ込めるわけではないので、ローンを組む場合はもっと長い年数となるでしょう。
アメリカの住宅価格は、意外にお手頃?
このNumbeoにPIRのデータが掲載されている国は、全部で111カ国。先進国の中でも住宅の購入ハードルが高いイメージのある日本ですが、日本のPIRは高い方から58番目と中間あたりに位置しています。
G7の国々の数字を見ると、フランス:10.04(73位)、イギリス:9.47(78位)、ドイツ:8.8(82位)、イタリア:8.76(84位)、カナダ:7.24(98位)、アメリカ4.04(109位)と、軒並み日本よりも家が買いやすいことがわかります。
中でも特筆すべきなのが、アメリカです。
アメリカのPIR指数は全111カ国のなかでも非常に低い数字で、年収4年分。ニューヨークの不動産価格の高騰を鑑みると、この結果を意外に思う人も多いのではないでしょうか。先ほども言及したように、このPIRという指標は、あくまで中央値の比較です。一概に「アメリカは住宅価格が手頃だ」とは言い切れないものの、収入に対する住宅価格のバランスは思いの外、悪くないことがわかります。
富裕層と高額不動産のニーズのバランスや、土地が広く、DIYを行った中古物件でも不動産価値が下がりにくいといった市場特性により、幅広い収入層が住宅を購入しやすい環境になっているのがアメリカのPIR指数が低い要因と考えられそうです。
ガーナで家を買うのは至難の業?
その他、PIRが最も低い国と最も高い国も紹介します。
まず、最も低かったのはサウジアラビアでPIRは2.66。サウジアラビアというと石油関連産業に携わる富裕層を思い浮かべますが、JETROによるとサウジアラビアの年収の中央値は1~1.5万ドルほど。日本円にすると約100万円前後です。
サウジアラビアのPIR指数の低さは、どうやらアラブ諸国特有の住宅文化が影響していると考えられます。まず、人口密度が低いため地価が高騰していないこと。そして、砂が屋内に侵入しないよう窓や戸を減らしたり、雨が少ないため屋根をフラットにしたりと、家の造りがシンプルで価格が抑えられやすいということが背景として挙げられます。現に、他のアラブ諸国もアラブ首長国連邦:4.49(107位)、パレスチナ:4.67(106位)、オマーン:5.45(105位)、カタール:6.13(103位)とPIRは軒並み低めの数字に。つまり、アラブ諸国のPIR指数の低さは「環境に起因する低コスト住宅が多い」という事情が背景にあることがわかります。
一方、PIRが最も高い国はガーナで、101.20。なんと年収100年分を超えてしまう数値です。これは2位のシリア:66.09、3位の香港:45.71と比べても圧倒的に高い数字です。このような極端な数字になった理由は、貧富の差の激しさと急激な近代化に対して、PIRという統計手法がマッチしていないためだと考えられます。
ガーナでは、近年まで土地の所有権という概念が薄く、気に入った場所に自分たちで小屋を建てて住むのが一般的でした。当然、家を売買する商習慣もありません。つまり、家の価格などを算出する必要もニーズもないために、住宅価格の中央値にはこれらの家の存在は考慮されていないと推測できるのです。
その一方、近年ガーナでは一部の富裕層が近代的な一軒家や高層マンションに住み始めています。これらの住宅は富裕層向けに作られており、もちろん売買や投機などの対象にもなります。つまり富裕層の所有するごく少数の高額物件だけが「平均的な不動産」として算出され、これがPIRが異常に高い要因となっているのです。
このように、PIRは各国の経済発展や文化的な諸条件の影響を受けやすいため、投資の指標として使うには、いささか心もとないデータかもしれません。とはいえ、似たような経済背景を持つ先進国同士や、一国の複数年の変遷を比較する分には、使えるシーンも多々ありそうなデータです。特にアジアなど経済発展の目覚ましい地域であれば、その数値の変動も年ごとに大きく変化します。海外の不動産投資に興味がある方は、興味があるエリアの毎年のPIR指数を比較分析してみることで、見落としていた注目エリアを発見できるかもしれません。
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