Highlights
- 生きていくために必要不可欠な「居住権」の日本と海外の違いを比較
- 日本は圧倒的に家を借りる側が優位だが、アメリカでは貸す側が優位
- 居住権を保護するのはあくまでも国、という考え方がアメリカなど諸外国では主流
日本の「居住権」は世界から見ても特殊?
「住居」は人間が生きていくために必要不可欠なものです。そのため、多くの国では法的に「住む権利=居住権」が定められています。日本でも当然、居住権は認められており、持ち家のない人が住居を確保するためのさまざまな対策・政策が存在しています。
居住権によって恩恵を受けるのは、家を借りる人だけではありません。安定した住居が保証されることは、労働力や経済の安定、また治安や公衆衛生の向上にもつながるため、国力の向上という点から考えても、非常に重要な権利だと言えるでしょう。
しかし、日本においては居住権にまつわる制度や、その実現方法が世界的に見てもかなり特殊なものとなっており、住居を貸す側・オーナー側のネックとなっている部分もあります。では、日本と海外の居住権への向き合い方の違いとは、どのようなものなのでしょうか。
借り手側が圧倒的に優位な日本の実情
日本における居住権は、主に借地借家法で定められた“借家権”によって担保されています。借家権とはいわば、不動産を借りている人に発生する「借り続ける権利」のこと。この権利があることで、多少の家賃滞納等があっても、貸主は借主を強制退去させることは難しくなっています。2ヶ月以内の滞納であれば、貸主は催促はできても、強制退去などの法的な手段を取ることは難しく、仮に裁判を起こしたとしても、認められる見込みはほとんどないのが実情です。
3ヶ月以上の滞納になると、契約解除通知を送付することができますが、それでもすぐに退去させることは難しく、仮に借主側に支払いの意志がある場合は、借家権が効力を発揮します。
貸主側がどうしても退去させたい場合、3ヶ月以上の滞納実績に加えて、借主に支払い意志が無いこと、そして信頼関係が修復不可能な状態にあることを裁判で示さなければなりません。
これは裏を返せば、借りている側は支払い計画書を作成するなどして、滞納分の支払い意志を形式上でも示せば、そのまま物件に住み続けられるということでもあります。また、たとえ契約違反(1人用物件に複数人で住む、ペット不可物件でペットを飼う…など)があった場合でも、即時退去は難しく、退去勧告と裁判を経るケースが多いようです。
こうした居住権に関する日本の実情は、貸主側からすると、家賃滞納によるキャッシュフローの悪化や、未回収リスク、物件価値の毀損リスクなどにもつながり、大きなネックになっているともいえます。
こうした実情は貸す側だけではなく、一般のまっとうな借り手たちにとっても、間接的な不利益をもたらしているといえるでしょう。貸主側のリスクが大きいばかりに、過剰な保証制度が必要になってしまい、退去ハードルが高いがために入居時の審査が厳しくなったり、敷金礼金や余分な保証金が必要になる、といったことにもつながっているからです。
アメリカは貸主に優位な制度設計に
アメリカは日本とは大きく事情が異なります。アメリカでは、家賃支払日を1日でも超過して滞納が発生すると、賃料の5%程度の金額を遅延損害金として上乗せ請求が可能になっており、滞納が続く場合は預託金(日本でいう敷金)から補填することも認められています。その場合はむしろ借主側に、減った分の預託金を入金し直す義務さえあるのです。
特に滞納に厳しい州では、支払い日翌日から「NOTICE OF VACATE(退去通告)」を送付するようなケースも。入居者は滞納金をすぐ支払えない場合、退去を強いられてしまうこともあります。借主側が開き直って居座ろうとした場合、裁判に発展するのは日本と同じですが、基本的には貸主側が勝つことが一般的で、判決後には警察が退去に立ち会います。
このように貸主優位なアメリカでは、滞納から退去まで1ヶ月もかからないことが多く、長くかかったとしても2〜3ヶ月程度。日本であれば契約解除通知を送付するか否かというタイミングで、アメリカでは退去が完了してしまいます。
こうした事情から、アメリカでは「もしもの時、本当に出ていってくれるのか?」と貸主側が余計な不安を抱える必要がないため、次の借り手探しにスピーディーに動き出すことができます。
運悪く困った借り手を引き当ててしまっても、すぐに退去してもらえる制度が整っているため、経済的な損失も小なくすみます。そのため、日本ほどの過剰な保証が必要な物件は珍しく、かつ審査もスピーディーに進むなど、借り手側のメリットにもつながっているのです。
居住権を保護するのは国の役割、という考え方
その他、多くの国々でも居住権は重要視されています。例えば、1996年に開催された第二回国連人間居住会議のイスタンブール宣言には、「適切な住居への権利の完全かつ漸進的な実現というわれわれの約束を再確認する」という文言が盛り込まれており、多くの国がこれに調印しました。
貸主優位なアメリカでも、もちろん居住権は尊重されており、コロナ禍においては住居を失う人を出さないために、家賃滞納による強制退去に禁止措置を取っていました。注目すべきは、その間の家賃収入の減少に伴う経済的負担を大家だけに背負わせなかったこと。政府が緊急支援策として総額約465億ドルの家賃支援予算を確保し、入所者の申請により大家に家賃を入金する施策も同時に実施されたのです。
このように、居住権を守る責任と役割はあくまで国にある、という考え方がアメリカや他の国では一般的です。不動産投資家から見るとネックに感じられることも多い日本の独特な借主保護制度ですが、アメリカや諸外国のように貸主の権利も、さらに保護されるようになれば、日本の不動産市場の活性化にもつながるかもしれません。
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