今回の株式・為替市場の混乱をどう評価するか
日本の株式市場では史上最大の下げ幅を記録した後、最大の上げ幅を記録するなど、大きな混乱が生じた。その背景には、米国経済のリセッション懸念、日本銀行による利上げ継続の思惑、中東の軍事的緊張の高まりといった、多くの不確実性が影響しており、複合パニックの様相となった。
日経平均株価は年初の水準にまで調整しているが、S&P500は今年5月頃の水準にとどまっている。このように日本の株式変更幅が他国の株式市場より大きくなったことは、日本の株式市場の株式保有構造にも影響している。海外投資家のプレゼンスが高く、海外投資家の動きに大きく左右される構造であることに加えて、非伝統的金融政策を続けた結果、ETFの買入によって日本銀行が最大の株式保有主体となる特殊な状況である。日銀の金融政策が正常化に向かうならば、これまで日本銀行の政策サポートに依存してきた株式市場も債券市場も市場機能が試される。しかし、今回の市場の混乱が示したことは、日本銀行が正常化に向かうことに対して投資家が十分に対応できなかったということである。
もっとも、今回の経験を踏まえて、今後、投資家は中央銀行に依存しない世界への移行を展望した対応を進めると思われるため、今後はこれほどの大きな変化は生じる可能性は小さいだろう。市場機能が本格的に回復するためのショック療法としてポジティブに捉えることもできる。
図表1:日米の株式市場
出所:QuickFactSet
為替市場は円高に転換したのか
日本銀行が追加利上げを行った際に、更なる利上げの可能性を示したことは、海外投資家のグローバルキャリートレードの巻き戻しによる急激なドル円相場の調整に繋がった。CFTCが発表する投機筋(非商業部門)の円のネットポジションは、過去最大の円売りポジションであったが、今回の調整過程の中で6割程度が解消された。投機筋による過度な円安は終焉したと思われる。日本銀行から資産市場が不安定な状況では追加利下げはしないとの意見が示されたものの、円の低金利の安定性はこれまでとは異なり、不確実性が高まっているとの思惑は消えないだろう。
今後は、日米金利差や経常収支といった日米経済のファンダメンタルズの評価が重要になる。現在でも日米金利差が3%程度ある状況を踏まえれば、ある程度の円キャリートレートが続く可能性があり、特に新NISAの導入による個人投資家の海外投資フローの持続性は潜在的な円安圧力となり得る。
また、今回の混乱を生んだ原因の一つである米国景気の後退懸念については、引き続き注意が必要であるが、日本経済の景気後退懸念も根強い点を忘れることはできない。今回の日本銀行の追加利上げが実施された段階でも、明確なデフレ脱却宣言は出ておらず、政府が重視しているGDPギャップは依然としてマイナスの状況である。正に賃上げによる「物価と賃金の好循環」への期待をベースにした判断は、今後の経済動向によって評価されることになる。
図表2:ドル円と通貨先物(非商業部門)のポジション
出所:CFTC、QuickFactSet
米国経済はソフトランディングができるのか
米国経済がソフトランディングできるのかは、個人消費の強さにかかっている。失業率は緩やかに上昇しており、景気後退を示唆するサームルール(失業率の直近3ヵ月平均から過去1年間の最低値を引いた値が0.5%を上回ると景気後退が生じるという先行指標)も注目される状況である。もっとも、過去の数字と比較すれば未だ失業率は低い水準にあり、労働市場の構造変化等も踏まえた柔軟な判断も求められる。
また、インフレについても、物価の基調を示すPCEコアデフレーターは緩やかに低下しており、2024年6月には2.6%(前年比)となっている。雇用の最大化と物価の安定という二つの目標を課せられたFRBが、利下げに転換するとの期待が高まる状況にある。
図表3:米国の失業率とPCEコアデフレーター(前年比)
注:失業率は2020年4月に14.8%まで上昇した。
出所:QuickFactSet
米国経済がリセッションに陥るか、ソフトランディングを実現するかは、FRBの金融緩和に大きく依存している。これまでも、金利高は個人や中小企業の債務負担を増大させることで、実体経済のみならず資産市場の制約要因となってきた。今回、株式市場が不安定な動きを生じたなか、それを安定させるには、金融政策によって金融仲介を円滑に行うことができる環境を整えることが不可欠である。
資本主義経済において、景気循環は完全に無くなることはない。通常は短期間の調整を経て長期の緩やかな景気拡大期が続くパターンであるが、1990年代以降、金融市場が拡大した結果、金融発で景気後退が生じ、金融システムが毀損することで大きなリセッションが生じる局面も多くなっている。
この点から、今回の米国経済においても景気減速が小幅に収まるかは金融仲介の安定性が維持できるかにかかっている。米国銀行の商業用不動産やクレジットカードローンに対する融資態度は厳格な状況にあるが、昨年と比べれば緩和方向に向かっている。また、適格住宅ローンに対する貸出態度は緩和状況にある。このように、米国の金融システムは正常に機能している状況にある。リーマンショック以降の金融規制の強化は、金融システムの頑健性の大きく寄与したことが窺える。このような変化は、資産価格の一時的な変動が拡大することに比較すれば、長期的な安定性を保つことに繋がっていると考えられる。
図表4:銀行融資慣行に関する上級融資担当者の意見調査
注:種類毎のローンの基準を厳格化すると答えた米国銀行の割合を示す
出所:セントルイス連邦準備銀行
執筆日2024.08.09
著者 柴崎健(SBI大学院大学 経営管理研究科教授) 1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、みずほ証券にて金融資本市場の調査(金融・財政・マクロ経済・金融制度・ESG投資等)に25年間携わる。みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ) にてコンサルタント、みずほ証券グローバル戦略部にて産官学連携にも従事。 著書『金融緩和のもとでの国債リスク』、『2020年 消える金融』(共著)、『シナリオ分析 異次元緩和脱出』(共著)、 『金融資本市場と公共政策-進化するテクノロジーとガバナンス』 (共著)、『現代ビジネスエシックスと企業価値向上』(共著)等 |
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