米国大統領選挙は社会における転換点となるか
2024年の米国大統領選挙は、アメリカのみならず世界経済の大転換となるかを占う意味で、今年最大のイベントである。事前の予想通り、現職のバイデン大統領と前大統領のトランプ氏の一騎打ちとなったが、多くの有権者からは今から選挙後の政治動向を不安視する声も少なくない。一方、金融資本市場では、仮に「トランプ2.0」が実現した場合でも、前政権でトランプ氏が極端な公約でもそれを実行に移す様子を経験したこともあり、2027年に前政権が始動した時ほどには大きな混乱は生じない可能性もある。ただし、「トランプ2.0」では前政権時代よりも、貿易政策や移民政策に加えて、大統領権限を強化して現在も幾つかの裁判を抱えている司法省に圧力をかけるとの懸念もある。大統領選挙の行方は不透明だが、今後備えなければならないのは「トランプ2.0」であることは間違いない。
米国大統領選挙に向けて、米国市民がどのような課題を意識しているかを見ると、最大の優先事項は経済の強さであり、アンケート回答者の70%が優先度が高いと回答した(図表1)。この点では、インフレ圧力が低下して、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転換することで景気拡大を長期化できるかが大きな焦点である。現在は、粘着的な物価上昇圧力が残る中で、予想を上回る物価関連指標が続いている。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の公表文章の中で、FRBは年3回の利下げを引き続き予想していることが明らかとなったが、金融市場でも利下げ時期の予想は将来に後ろ倒しされる動きが続いている。コロナ禍への対応から、米国でも金融政策だけでなく財政政策でも巨額の対策が講じられたこともあり、金利高の長期化は債務者にとっては大きな負担となるはずである。そうならないうちに、金利を引き下げることができるか否かは、景気動向とともに大統領選挙にも大きな影響を与えるだろう。
反対に、米国民の関心が最も低い課題は、世界貿易の対応であり、優先度が高いと回答した割合はアンケート回答者の31%に過ぎなかった。これは米国経済の一人勝ちの状況となるなかで、世界経済に対する関心が薄れていることで、米国の保護主義を容認する風潮が強まっていることを窺わせる。
図表1: 米国市民の優先課題
Pew Research Center. “Americans’ Top Policy Priority for 2024: Strengthening the Economy.” February 29, 2024.
同アンケートによると、優先度の違いは共和党員と民主党員で大きな違いがあることも浮き彫りになった。図表2は、それぞれの課題について、共和党員が優先課題とした割合から民主党員が優先課題とした割合を引いたものである。仮にトランプ氏の共和党が勝利した場合、この数値がプラスであればあるほど、その優先順位の課題が実現することで、現在の民主党政権からの変化が大きいことを意味する。この結果によると「トランプ2.0」による最大の変化は移民への対応となっており、移民排斥が加速することが想定される。次に、軍事力強化、財政赤字の削減となっており、民主党のような社会保障を重視する財政スタンスから大きく転換する可能性がある。軍事力強化への傾向もあるため、本格的な緊縮財政に転換することは見込み難いものの、高金利環境においては規律のある財政運営は、民主党政権よりも米国金融市場にとっては望ましい面もある。
一方、共和党の気候変動への対応や環境保護に対する優先度は、民主党よりもかなり低い。バイデン政権は、米国インフレ抑制法(IRA)で、再生可能エネルギーを普及させてカーボンニュートラルを実現させるための取り組みを行ってきたが、トランプ氏が大統領選挙に勝利すれば、これらの新たな産業に対する補助が継続することは難しいだろう。このような産業政策の転換が実現するとなれば、世界的なカーボンニュートラルへの取り組みへの影響もある程度は覚悟する必要がある。
図表2:共和党員と民主党員の優先課題の違い
出所:Pew Research Center
米国大統領選挙は理念よりも経済優先で決まる
このように大統領選挙の結果次第では、米国経済や産業に大きな変化をもたらす可能性がある。そして、民主主義といった理念的な対立というよりも、どちらの候補者が米国経済の強さを引き出していくかという点が最も大きな争点であると考えられる。いずれの候補者が勝利したとしても、イスラエルやウクライナの支援は現実的な解決を探る方向に向かい、国内問題への対応を重視する方向に向かうことが見込まれるが、特に産業政策については、両候補者の方向性は大きく異なっている。米国経済を牽引しているのはIT関連の先端企業であり、米国企業の優位性に変化が生じるかは注目点である。現在、バイデン政権はAIの安全性に関する大統領令を発令したり、米司法省が反トラスト法でアップルを提訴する等、大企業向けに規制強化の動きが強まっている。司法当局を含めた規制当局の動きにどのような影響が生じるかも、今後見極めていく必要がある。
今回の米国大統領選挙が読み難くなっている点は、トランプ氏もバイデン氏も高齢であることもあり、支持者が広がっていないことにある。無所属のローバート・ケネディ・ジュニアといった、第3局に投票がある程度流れることで、トランプ氏とバイデン氏の得票差が影響を受ける可能性がある。選挙結果が明らかになるまでは、金融資本市場は慎重にその結果の影響を試行錯誤する状況が続くだろう。
図表3:トランプ氏とバイデン氏の政策の違い
出所:各種資料より筆者作成
「トランプ2.0」は資産価格を支えるか
バイデン大統領の政治的成果は、コロナ禍の中で大胆な金融財政政策を実行して、米国経済をV字回復させたことにある。現在の堅調な雇用や資産価格の上昇は最も明らかな成果である。しかしその副作用としてインフレと高金利という現象に悩まされており、バイデン政権が2期目を迎えるためには、なるべく早めに利下げができる環境に持ち込むことができるかが大きな鍵となる。
一方、トランプ氏は、バイデン大統領以上に国内経済の成長を持続させることに集中するだろう。特に、財政赤字の削減を掲げる以上は、金融緩和にはより前向きに対応することが見込まれる。その点では資産価格に関して、不動産業からビジネスを拡大させてきたトランプ氏の方が市場の動きを理解してサポーティブなスタンスを取ると考えられる。これは日本から見れば、日米金利差の縮小を通じて円高圧力を高める要因でもある。ただし、「トランプ1.0」では、金利が低下するなかでドル円は大きな変化を示していない。前々回の大統領選挙前の2016年10月末のドル円は105円台であり、4年後のドル円は104円台で推移している。このように、「トランプ2.0」でも、為替政策は中立スタンスとしながら、各国とのディール交渉を強いスタンスで行うという取り組みに変化はないのではないだろうか。ドル円については、大統領選挙結果がどちらになろうとも、現在の円高ドル安基調を転換には大きな影響を与えず、むしろ国内の貿易収支構造等の要因の方が長期的な傾向には重要であろう。
図表4:大統領任期と金利・為替・不動産市場の動き
注:ドル円と全米住宅価格は1993年1月を100として指数化。黄色は共和党政権の時期を示す
出所:QuickFactset
執筆日:2024.04.02
著者 柴崎健(SBI大学院大学 経営管理研究科教授) 1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、みずほ証券にて金融資本市場の調査(金融・財政・マクロ経済・金融制度・ESG投資等)に25年間携わる。みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ) にてコンサルタント、みずほ証券グローバル戦略部にて産官学連携にも従事。 著書『金融緩和のもとでの国債リスク』、『2020年 消える金融』(共著)、『シナリオ分析 異次元緩和脱出』(共著)、 『金融資本市場と公共政策-進化するテクノロジーとガバナンス』 (共著)、『現代ビジネスエシックスと企業価値向上』(共著)等 |
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