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もしハリス副大統領になったら~インフレ抑制策が金融・不動産市場に与える影響は?

「もしハリ」で米国経済はどうなるか

各種世論調査によると、ハリス副大統領はトランプ前大統領の支持率をやや上回るものの、米国大統領選挙はふたを開けてみないと分からない大接戦が必至の状況である。「270 to Win」によると、全米での支持率はハリス副大統領が48%に対してトランプ前大統領が45%と2.7%の差をつけている。激戦州(スイング・ステート)を見ると、トランプ前大統領がアリゾナ州とノースカロライナ州でややリードする一方、ハリス副大統領はジョージア州、ミシガン州、ネバダ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシンで相手の支持率を上回っている。ただし、その差はウィスコンシン州を除けば1%ポイント程度に過ぎないため、いつ形勢が逆転してもおかしくない状況である(図表1)。
ハリス副大統領は黒人、中南米、Z世代を中心に支持率を高めているが、現時点でも前回大統領選挙時のバイデン大統領の当選ラインには至っていない。このため、今後も選挙への思惑によって、金融資本市場は不安定な動きを続けることが想定される。更に、大統領選挙の結果が残差で決まるようであれば、前回のように大統領決定に至るまでに長い時間を要したり、米議会選挙結果で政権とのねじれ現象が生じて、政権運営が当初から困難に直面する可能性もある。このように、米国の政治的な空白期間が生じる可能性は否定できない。これは米国のみならず、世界の政治バランスや金融資本市場にも大きなリスクである。我々は両候補のいずれが勝利した場合にも備える必要がある。これまで「もしトラ」について語られることは多かったが、「もしハリ」にも同じように備える必要がある。

図表1:2024年大統領選挙の世論調査

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注:2024年9月5日時点
出所:270 to Win

図表2は民主党と共和党の主な政策の違いを示したものである。7月のバイデン大統領の選挙戦撤退後、ハリス副大統領の大統領選挙出馬への準備期間が短かったこともあり、掲げる政策はこれまでのバイデン大統領の方向性を踏襲している。各党の経済政策については、選挙戦で異なる言葉を使っているものの、経済格差が拡大するなかで豊かさを実感できない中間層に焦点を当てた点は同じである。このため、両党の家計に対する経済政策はインフレ対応が焦点となっている。一方、企業への対応としては、民主党は補助金政策を、共和党は規制緩和と減税といった構図である。また、移民問題、中絶、外交、環境問題については、両党の間で大きな違いがみられるため、経済よりもそれ以外の政策項目が、得票率を左右すると考えられる。
最も大きな違いは両候補のイメージ戦略かもしれない。銃撃事件にも怯まないことで神格化され、米国を唯一の超大国として復活させる強いリーダー像を演出するトランプ前大統領に対して、ハリス副大統領は多様性を持ち、世代交代を意識して新しい米国を生み出すためのチャレンジャーという印象を有権者に与えている。今後は、イメージ戦略だけでなく、具体的な経済政策の違いが、候補者討論会で明らかになるかは注目すべき点である

図表2:民主党と共和党の主な政策の違い

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出所:各党の政策要領及び各種報道資料を基に筆者作成

ハリス副大統領のインフレ抑制策

前述の通り、現在の民主党政権に対する批判は、移民問題、イスラエル支援等とともにインフレによる生活水準の悪化が大きかった。このため、ハリス副大統領は、食品価格の統制や住宅不足の解消に強い意欲を見せている。米国において食品価格の変動を統制することが果たしてできるかは不透明であり、具体的な内容が分かるまで評価は難しい。初めての購入者向けの住宅を建設する業者に対する新たな税額控除と購入者を対象とした2万5,000ドルの税額控除を行うことで新設住宅を4年間で300万戸増加させるとの意向を表明した。また、400億ドルの基金を設立して、不動産規制の簡素化や家賃補助の拡大についても言及している。
これらの政策は、一見すると低中所得者層に対する幅広い支援策であり、有権者の支持を得やすいものである。しかし、既に住宅を保有している層や地域コミュニティーが比較的強い地域においては、必ずしも望まれたものではない。特に、共和党が政権の移民政策に対する批判を強めるなかにおいては、支持が分かれる可能性もあるだろう。
NPO法人「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によると、ハリス副大統領が米国家計のコスト削減プランを実行するためには、今後10年間で1兆7,000億ドルが必要であり、更に住宅政策が恒久化される場合には、総コストが2兆ドルに膨れ上がると見積もっている(図表3)。また、トランプ前大統領も言及して話題となったチップ税の廃止と、最低賃金の引き下げを実施すると、今後10年間で1,000~2,000億ドルのコストがかかると推定される。
その一方で、ハリス副大統領は、法人税を21%から28%に引き上げることを検討しており、この政策は今後10年間で1兆ドルの税収増と見込まれる。バイデン副大統領の政策を見ると、企業及び富裕層から低中所得層への所得再分配を指向しているが、全体としては、財政赤字が拡大する可能性は相応に高いとみられる。

図表3:ハリス副大統領の米国家庭のコスト削減プランによる財政的影響度(CRFB試算)

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出所:Committee for a Responsible Federal Budget “The Kamala Harris Agenda to Lower Costs for American Families”

米国の財政赤字拡大はドル高要因なのか

バイデン大統領が撤退を表明した7月までは、トランプ前大統領が有利に選挙戦を進めていたことから、ドル高と米金利上昇というトランプトレードが進んでいた(図表4)。これは、トランプ氏による規制緩和や保護主義の貿易政策がインフレ圧力を高めるとの思惑からであり、前回のトランプ政権の時と同様に、トランプ前大統領がドル安を志向すると言っても、市場はそれに反応しなかったのである。そして、財政赤字の増加によって米国債が売られて長期金利が上昇するため、ドル高が進行したのである。なお、今回の両党の政策項目を見ても、財政赤字の拡大という点からは、程度の差はあれどもドル高を促す内容となっている。
7月中旬以降はハリス副大統領の支持率が高まるなかで、トランプトレードの巻き戻しが入っている。これは、トランプ前大統領の政策がインフレに繋がる一方で、価格統制を志向するハリス副大統領の政策はディスインフレを想起させるためであろう。金融市場もFRBが大幅な利下げを実行することを期待しており、日銀の利上げ幅の予想が極めて小幅に留まることを考慮しても、日米の長期金利差は大きく縮小することが予想される。ただし、このような思惑を背景にドル安が進みつつある面があるが、果たして更なるドル安が実現するかは、インフレ抑制策の効果と米国の経済成長がどこまで鈍化するかにかかっている。仮に、ハリス副大統領が大統領選挙に勝利しても、議会とのねじれ現象などで意図した政策運営が難しい場合には、現状の為替水準からは大きく変化しないことも予想される。その意味でも、ハリス副大統領のインフレ抑制策の実効性は今後も大きな注目を集めることになる。

図表4:日米長期金利差とドル円相場の長期推移

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出所:QuickFactSet

執筆日2024.09.20

著者 柴崎健(SBI大学院大学 経営管理研究科教授)

1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、みずほ証券にて金融資本市場の調査(金融・財政・マクロ経済・金融制度・ESG投資等)に25年間携わる。みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ) にてコンサルタント、みずほ証券グローバル戦略部にて産官学連携にも従事。
SBI大学院大学教授、京都大学客員教授、早稲田大学非常勤講師等を務める。

著書『金融緩和のもとでの国債リスク』、『2020年 消える金融』(共著)、『シナリオ分析 異次元緩和脱出』(共著)、 『金融資本市場と公共政策-進化するテクノロジーとガバナンス』 (共著)、『現代ビジネスエシックスと企業価値向上』(共著)等

 

※この記事は、執筆日時点の情報を基に作成しています。最新状況につきましては、スタッフまでお問い合わせください。

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