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なぜ米国経済の成長は持続するのか

金利上昇の影響はこれから本格化

米国では予想以上のインフレと高金利が続いている。金融市場では年内の利下げ予想は1~2回程度が大勢を占めており、長期金利も2023年夏の水準にまで戻る状況である。これまでも、金融市場は将来の金融政策を事前に予想する形で動いてきたが、今回の金利上昇も同様に、FRBが実際に利上げを実施することなく、利上げ効果を生んだといえる。
元サッカーアルゼンチン代表選手のディエゴ・マラドーナ氏が1986年のFIFAワールドカップで、相手の守備陣をかいくぐってシュートを決めた際に、守備陣はマラドーナ選手の行動を読み過ぎた結果、マラドーナ氏は難なく5人抜きドリブルでシュートを決めることができた。これを踏まえて、キング元英中銀総裁は2005年の講演で、金融政策もこれと同様に、金融市場が中央銀行の行動を予想することで、中央銀行は政策目標を達成すると論じた。この「金利のマラドーナ理論」は、当時の金融市場関係者で大きく注目されたが、資産価格の上昇トレンドが続くなかで、金融市場の動きが実体経済に与える影響は当時と比べてはるかに大きい。
現状、金利負担が大きくなるなかで、今後も米国経済の7割弱を占める個人消費が堅調さを維持できるかが注目されている。2023年末の個人ローン残高は17.5兆ドルと過去最高水準であり、このうち住宅ローンが12.3兆ドルと全体の7割を占めている(図表1)。住宅ローンは、コロナ危機後の金融緩和と住宅需要の高まりによって2022年1-3月期に前年比10%の伸びを記録した後、2023年10-12月期には同2.8%まで伸び率が低下している。その一方で、ホームエクイティローンやクレジットカードローンの伸び率が上昇しており、2023年10-12月期には、それぞれ同7.1%、14.5%となっている。

図表1:個人ローン残高

図1-Jun-04-2024-03-47-40-7619-AM

出所:ニューヨーク連邦準備銀行

家計の貯蓄率は、コロナ対策による給付金や外出制限によって2020年から2021年前半にかけて一時的に急上昇したが、旺盛な消費行動を受けて、2024年3月には3%台と2007年の世界金融危機の頃の水準まで低下している(図表2)。また、バイデン政権は、学生ローンの減免策を講じているが、これが新たなローンを組んで消費を拡大させることに繋がったとの報道もあり、必ずしも個人の債務バランスの改善にはつながっていないようである。金利上昇による家計の負担の増加は、現時点では大きな消費の減少にはつながっていないものの、債務の安定性は今後の経済ソフトランディングを達成するための重要な鍵となる。これまでは、資産価格の上昇が借入余力の増大にも寄与していたが、足元ではAI・半導体関連株を中心に株式市場が不安定化しているため、個人消費の拡大ペースはやや鈍化する可能性が見込まれる。

図表2:個人の貯蓄率

図2-Jun-04-2024-03-47-48-3096-AM

出所:セントルイス連邦準備銀行

個人ローンの返済状況を見ると、消費者ローンやクレジットカードローンの延滞率の上昇が続いており、金利上昇の影響が見られる。ただし、延滞率の水準は、コロナ禍の水準であり、過去と比較してもそれほど高いとは言い難い。また、固定金利の割合が高い不動産ローンの延滞率は、2022年後半をボトムに上昇に転じているが、2023年10-12月期には1.4%と依然として低い水準にある。その点では、足元の金利上昇による債務負担増は一定の景気減速をもたらすものの、景気の過熱感を抑えてインフレ圧力の低下を通じたソフトランディングの可能性を高める方向に働くだろう。

図表3: 個人ローンの延滞率とFF金利

図3-1

出所:セントルイス連邦準備銀行

移民政策が長期的なインフレに影響する

金利上昇によって景気が減速して、インフレ圧力が緩和されれば、FRBの利下げが前倒しされる可能性が生じてくる。その点でインフレ動向に注目が集まっているが、2024年1-3月期の米個人消費支出(PCE)価格指数(除く食品・エネルギー)からは、再びインフレ圧力が高まっていることが示された。PCEコア価格指数は、前年比ベースではプラス幅を縮小させているが、前年同期比では、再びプラス幅が拡大に転じている(図表4)。このため、金融市場ではリスクシナリオとして、FRBの年内利下げはない、次は利上げの可能性もある、との見方さえも浮上している。
2024年1-3月期の実質GDP成長率は、前年同期比(年率換算)で1.6%増となり、景気が巡航速度に落ち着きつつある(図表4)。これは個人消費の伸びが前期の3.3%増から2.5%増に減少した要因が大きいが、なかでも資源高を受けたガソリンや自動車といった財消費の減少が目立つ。その一方で、サービス消費は前期比のプラス幅が拡大しており、堅調な消費スタイルには大きな変化は生じておらず、インフレ圧力が粘着性を持っていることも窺える。このような現在の米国経済の強さは、コロナ禍やウクライナ危機といった有事に伴う需要の増加と労働市場の柔軟性から生じている。

図表4:PCEコア物価指数と実質GDPの変化

図4

出所:QuickFactSet

インフレ圧力の高まりは最大の景気調整リスクである。短期的には、地政学リスク等の高まりを受けて、資源価格等の高騰がインフレを加速させることも想定されるが、長期的に見れば、インフレ圧力は低下していると考えるべきであろう。
移民政策は米国大統領選挙の大きな争点であるが、移民による人口増加は米国の経済成長の原動力であるだけでなく、インフレ圧力を緩和する。移民による労働力供給が無ければ、単位当たり労働コストが現状よりも上昇していることは明らかである。加えて、移民の増加は米国イノベーションを加速させる。米国政策財団(NFAP)によると、イーロン・マスク氏のスペースXを代表的な例として、米国ユニコーン企業のうち移民が創業した企業は半数を超えている。また、移民創業者のうち最も多い出身国はインドであり、現在のAI・半導体関連事業を担う潤沢な人材プールとなっている。技術進歩は労働市場を通じたインフレ圧力を長期的に緩和する方向に働く。その点で、米国経済の持続的な成長にとっての根源的なリスクは、大統領選挙後の移民政策の変化にあるといえる。

図表5:米国の人口に占める移民の比率

図5

出所:米国国勢調査局、Pew Research Center

執筆日:2024.05.08

著者 柴崎健(SBI大学院大学 経営管理研究科教授)

1989年日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、みずほ証券にて金融資本市場の調査(金融・財政・マクロ経済・金融制度・ESG投資等)に25年間携わる。みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ) にてコンサルタント、みずほ証券グローバル戦略部にて産官学連携にも従事。
SBI大学院大学教授、京都大学客員教授、早稲田大学非常勤講師等を務める。

著書『金融緩和のもとでの国債リスク』、『2020年 消える金融』(共著)、『シナリオ分析 異次元緩和脱出』(共著)、 『金融資本市場と公共政策-進化するテクノロジーとガバナンス』 (共著)、『現代ビジネスエシックスと企業価値向上』(共著)等

 

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