賢人たちを賢人たらしめている行動や考え方は。そして、大切にしている習慣は──。 インタビューを通じて、そんな共通点を探っていきます
経営学というのは、アカデミズムの世界ではどんな立場なんですか?
一番偉いのは哲学と歴史なんです。抽象度が高く、時間軸が広いということが尊敬の対象になる。次に偉いのが、物理、化学、数学などの基礎科学の世界で、工学や経営学なんていうのはずっと下。下層階級。でも、需要は多いし、その分、発表がたくさんできる。私にとっては非常に面白い分野です。
その中でも先生のポジションは、絶妙じゃないですか。
学者の世界にも、川の流れのように上流や下流があるんです。基礎理論をやる学者は上流で、何かを人に伝えるというより自分がわかったということ自体に満足する人たちですね。多摩川で言えば奥多摩の上流の人たち。檜原村とか。
下流の人たちは?
多摩川の河口あたりにいるのは、自分の意見で社会的な資源配分が変わることに喜びを感じるタイプの学者ですね。
なるほど。じゃ、先生はどのあたりですか?
(川崎市北部の)登戸ですね。
登戸!
別に大臣になりたいわけじゃないから河口に行きたくはないし、かといって檜原村はイヤだし。このあたりでやってみようかなと。
我々のような現場でビジネスをしている人間にパスが届くくらいがいいという感じなんですね。
そうなんです。ちょっとお役に立てたかな、気づきにしてもらえたかな、というぐらいがちょうどいい。とはいえ、どんな人にもパスが届くというわけじゃなくて、やっぱりそこは相性もありますね。どん引きされることだってありますし。
どん引きされるんですか? こんなにお話が面白いのに。
非常にウケがいい会社も、「誰がこいつを呼んだんだ」っていうぐらい引かれる場合もある。
そんなものですか。
どうやら人間的なカルチャーのところは肌が合うみたいですね。機械的なところは向いてない。
なるほど、同じITでも、人が前に出てくるところが合うわけですね。
まあ、それは私が判断することじゃなくて、先方が決めればいいことなんですが。
最近はどんなテーマをお考えなんですか。
「逆タイムマシン経営」っていうのを考えています。
「逆タイムマシン経営」ですか。
私、1964年生まれなんですが、生まれた日の新聞を見ると「新秩序迫られるIMF体制」というトップ記事で「激動期」って書いてあるんです。でもその翌日も、そのさらに次の日も、「今こそ激動期」って書いてあって、以来、55年間、ずっと日本は激動期。あるいは25年前の経済誌を読み返すと「インターネットは隕石だ。25年後には通勤もスーパーもなくなっている」とあります。
なるほど、タイムマシンですね。
OAの到来で仕事を失うと言われ、PCの普及で仕事を失うと言われ、今はAIに仕事を奪われるって言われている。これを私は「いつか来た道トラップ」って言ってるんですが、つまり我々は常に同時代ノイズの中でつい本質を見失ってしまうんです。そうしたバイアスを取り除き、変わることのない普遍的なロジックを持ったほうがいい。そうすれば、これからサブスクリプションだ、なんて慌てることもないでしょう。
そういう新しいコンセプトは、いつ思い浮かぶんですか。
私は考えることが大好きで、いつも何かしら考えていますから、その中でヒラメキとして浮かんできます。そのヒラメキを頭の中にキープしておいて、どんどん肉付けしていく感じですね。そんな根幹となるロジックは仕事場の「超重要ノート」に書いておきます。
「超重要ノート」?
ええ、机の上に置いてあります。本当に重要なことは、手書きじゃないとだめですね。手を動かしながら書いていくことで、考えも深まっていきます。
じゃあ、「超重要ノート」は、絶対になくすわけにはいきませんね。あと必携なのは。
予定帳ですね。スマホのスケジュールアプリじゃなくて紙の手帳が安心です。この手帳をなくしたら、どうしていいかわからないほど、大切です。予定帳以外に持ち歩くのは新幹線の中で仕事をするためのパソコンと、読みかけの本ですね。あとは脳味噌だけあれば仕事はできます。本を書くのも、頭の中にあることを言語化するだけですから、書き始めたら速いです。すぐに書き上げちゃう。そのかわり出版社とは絶対に締め切りは設定しません。「いつ原稿をもらえますか」と聞かれても、気が熟したら、と答えています。
なぜ締め切りを決めないんですか?
とにかくプロダクトアウトでありたいんです。マーケットインは考えない。いま何が求められているかという意識はまったくないですね。常にこちらがサーブ権を持つようにしています。自分が関心あるものを考えて書く。これは自分の中ではかなり核となる考え方ですね。
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