【この記事のポイント(Insights)】
12地区の連邦準備銀行の1つである、サンフランシスコ連邦準備銀行の総裁、メアリー・デイリー氏がインフレ長期化の懸念とさらなる利上げの必要性を語ったことが注目されています。
2023年3月4日にプリンストン大学で経済政策に関する講演を行ったデイリー氏は、直近のインフレ緩和傾向とそれを実現した政策について一定の評価をしつつも、インフレ率は依然として目標を大きく上回っていることを強調。23年1月に月次ベースでインフレ率が上昇したことにも触れ、「やるべきことがもっとあることは明らか」と述べました。
彼女は続けて、「この高インフレのエピソードを終わらせるためには、さらなる引き締めを長期間維持することが必要になる」と発言。経済メディアや投資家たちはこの発言を、利上げの長期化やペースアップが行われるのではと受け取ったようです。
デイリー氏は、リーマンショックからパンデミックまでの間、FRBが今とは反対にデフレ対策に追われていた時代を振り返りつつ、現在は状況が一変しているとし、その要因として以下の4つを挙げました。
デイリー氏は「decline in global price competition(グローバルな価格競争の減少)」と表現しましたが、説明の中身はほぼリショアについて語られています。
リショアとは、生産拠点を国内に戻すことをいい、生産拠点をコストの安い途上国に移管するオフショアに対する概念として生まれました。中国をはじめとするオフショア先国で人件費が上昇傾向にあることから検討されはじめたリショアは、パンデミックによる国際物流の停滞を機に加速しました。
リショアが進むと、生産コストは上昇します。途上国の人件費が上がったと言っても、アメリカの人件費はそれ以上だからです。製造原価が上昇すれば、販売価格も当然上昇するため、インフレ要因となります。
パンデミック下で離職した人の一部は、経済活動が再開した今も労働市場に戻ってきていません。特に55歳以上の世代でこの傾向が顕著です。シニア世代に差し掛かろうという彼らは感染リスクを避けるために自主退職しましたが、多世代に比べて金銭的な余裕があるため再就職の必要性が高くありません。不足した労働力を補うために移民受け入れを促進しようと訴える人々もいるものの、賛否があり少なくとも数年内に劇的な変化は起こらないでしょう。
結果、限られた人材を企業間で奪い合うことにあり、給与水準が上昇。あらゆる産業で人件費が高騰しており、インフレを後押ししています。
デイリー氏が「transition to a greener economy(グリーン経済への移行)」と表現しましたが、日本ではSDGs(あるいはESG投資)と言ったほうが通りがいいでしょう。環境配慮の観点から、再生可能エネルギーの利用や、エネルギー効率のいいスマートテクノロジーの導入が世界的に進んでいます。アメリカも例外ではなく、企業はこれに対応するために多大な投資を強いられています。
その投資コストの一部は消費者に転嫁、つまり商品やサービスの価格に上乗せして回収されます。
最後に、デイリー氏が自身の最優先課題として挙げたのが、インフレ期待の変化です。インフレは一度勢いが付くと収束が困難になると言われていますが、その最大の要因が人々のインフレ期待の高まりです。
インフレが一定の水準を超えると、人々はインフレが長く続くと予想するようになり、経済学ではこれをインフレ期待の高まりと呼びます。インフレ期待が高まると、人々は将来の生活不安から賃上げを要求するようになり、インフレ率がさらに高まるという悪循環につながります。これを防ぐには、人々が不安にかられる前にインフレを抑制するほかなく、FRBが引き締めを急ぐ理由はここにあります。
FRBが利上げのペースを判断する際のもう1つの重要な指標とされる雇用統計を見ると、引き続き堅調です。利上げにより景気が多少悪化しても、雇用市場がすぐさま崩壊するような事態には陥らないでしょう。
となると、FRBとしては利上げペースを早めようという判断に傾きやすい状況です。ここまでの利上げの履歴からすると、次回は0.25%の利上げだろうという見方が支配的でしたが、0.5%の利上げが行われる可能性も出てきました。
アメリカのインフレと金利政策がどう転ぶのか、先の読みづらい展開がまだしばらく続きそうです。
注目記事
なぜ、こんなにも多くのお客様にご支持を頂いているのか(その1)
なぜ、こんなにも多くのお客様にご支持を頂いているのか(その2)