【この記事のポイント(Insights)】
2023年10月30日、アメリカの財務省は23年第4四半期に7,760億ドルの借入を見込んでいることを発表しました。この数字は、7月末時点の予測よりも760億ドル小さいものの、これまで政府が第4四半期に借り入れた金額の最大値を更新するものです。
発表を直後こそ国債の利回りは低下しましたが、その後すぐに上昇に転じました。一般に、国の財政赤字が増えると、国債の発行量が増え、需給のバランスから価格が下がり、結果として利回りが上昇する傾向にあります。発表直後の利回り低下は、赤字額が予想よりも小さいことを反映した結果ですが、その後に反発したのは投資家たちがアメリカの財政状況に対し懸念を抱いていることの表れだと考えられます。
財政が悪化し赤字が膨らむと、政府が発行する国債の量も増えます。すると、利回りはさらに上昇します。将来さらに債券価格が低下すると予想する投資家は、利回りが上昇してから買おうと購入を先送りします。結果、国債需要が低下し、新しい国債の発行を待たずして利回りが上昇するのです。政府からしてみれば、同じ金額を調達するにもより多くの債権を発行しなければならず、好ましくない状況です。
米国財政に対する悲観的な見方が広がっている最大の要因は、赤字額の拡大です。財務省の発表によると、9月30日終了会計年度の赤字額の最新集計は1兆7,000億ドルで、前年から23%も膨れ上がっています。
バイデン大統領は国内外への手厚い支援政策を行う傾向にあり、歳出が大きくなりがちです。1兆7,000億ドルという数字ですら、最高裁判所によって却下された、バイデン大統領肝いりの連邦学生ローン免除計画の費用3,000億ドルを差し引いたものですから、もし計画が通っていたら赤字はさらに大きくなっていました。現政権の歳出の大きさは、共和党からの批判の的であると同時に、債券価格の低下にも一躍買ってしまっているようです。
また、上下院のねじれの影響で債務上限引き上げが遅れてデフォルト危機に陥ったことの影響もあるでしょう。フィッチによって格下げされたことをはじめ、その信頼が揺らいだことは間違いありません。期間内に100%利払いされる投資商品は、万が一で利払いが遅れるかもしれない投資商品になってしまったのです。国債の最大の魅力である安全性に疑いが生じたことは大きなマイナス材料です。
そのほかにも、国債価格が下がる要因がここのところ頻発しています。
注目度が高いところから挙げると、まず国際紛争。ウクライナやイスラエルの情勢がさらに悪化したり、好転せずに長引いたりすれば、それだけ支援予算が必要になります。これらの問題で直接的な歳入が発生することはありません。軍需企業の業績上昇による税収増はあるでしょうが、基本的には赤字要因です。
また、気候変動も大きなリスクです。自然災害の発生頻度が上がれば、被災者支援や復興のための歳出が増えます。さらに民主党政権は脱炭素化を掲げているため、その推進予算もかかります。
さらに根本的な問題が、貧富の差の拡大による分断です。貧困層が増えれば、支援予算も比例して必要になります。また、治安対策予算も拡充しなければならず、財政を圧迫します。
アメリカの経済は世界有数の強靭さを誇りますが、国家財政に関してはさまざまな懸念があります。いち早くその影響を受ける国債市場を観察しておけば、他の資産に影響が出る前に対策ができるかもしれません。複数の角度から情報を仕入れることで、資産を防衛しましょう。
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