【この記事のポイント(Insights)】
「MAGAnomics(マガノミクス)」という言葉を最近耳にした方もいるかもしれません。これは、トランプ前大統領が打ち出した「Make America Great Again」のスローガンを経済政策に転用した呼び名で、関税引き上げや移民制限、官僚機構の縮小などを柱とする保護主義的な政策パッケージを指します。米国経済を守るどころか、雇用や投資の不安をかえって増幅している側面もあるのが現実です。
こうした「自国第一」の流れは、実は世界各地にも波及しています。欧州でも移民や通商に対して厳格な政策を打ち出す動きが強まり、中国やインドなどの新興国も自国産業を国家主導で守る姿勢を鮮明にしています。日本に住む私たちにとっても、グローバル投資や企業活動を考えるうえで無視できない大きなトレンドといえるでしょう。
本記事では、まず米国のMAGAnomicsの正体をわかりやすく解説し、その影響がどのように世界に広がっているのかを追います。最後に、日本の投資家やビジネスパーソンがどのような視点を持つべきかを整理してみます。
まずは米国の足元を見てみましょう。2025年8月の米国雇用統計は、市場を驚かせました。新規雇用はわずか+2.2万人にとどまり、失業率は4.3%と2021年以来の高水準に上昇。主要メディアはこぞって「景気後退リスクが高まっている」と警戒感を示しました。
こうした中で注目されるのが「MAGAnomics」です。内容をかんたんに整理すると以下の通りです。
こうしてみると、「米国の雇用と産業を守る」という大義名分はわかりやすいのですが、実際には関税コストの転嫁で消費者物価が上昇し、雇用はむしろ伸び悩む結果となっています。「守るはずが逆風に?」という皮肉が、いま米国の現実なのです。
国だけが保護主義に傾いているわけではありません。
欧州:制度化される“防御的メリカンタリズム”
欧州連合(EU)では、極右・保守系政党の台頭に伴い移民規制や貿易制限の声が高まっています。これを背景に、EU自身も「開かれた戦略的自律」という考え方の下、産業保護策を導入中です。
象徴的なのがCBAM(炭素国境調整メカニズム)です。域外から輸入される鉄鋼やセメントなどに炭素排出量に応じた課金を行う制度で、2026年から本格的な徴収が始まります。2025年8月末には運用細則の追加パブリックコメントが行われ、実装に向けて具体化が進んでいます。環境政策の名を借りた“新しい関税”とも言え、国際貿易に大きな影響を与えるでしょう。
中国:逆張りの「自由化カード」
一方、中国は少し違うアプローチを見せています。米国が関税で市場を閉じる中、アフリカ53カ国に実質ゼロ関税を提供すると表明しました。これは「米国から排除された国々よ、代わりに中国市場へ」という呼び水であり、事実上の外交カードです。保護主義を内向きに強めつつ、外に向けては“自由化”を掲げる二面性を巧みに使い分けています。
このように、自由貿易から統制・国家介入へと舵を切る流れは米国だけでなく、欧州、中国、さらにはインドや中南米にも及んでいます。いまや「世界共通の現象」と言っても過言ではありません。
再び米国に目を戻しましょう。前述の通り、8月の雇用統計は+2.2万人、失業率4.3%と冴えない結果でした。景気の足取りが鈍る中で、トランプ政権は「強い米国」を演出しようと必死です。
しかし市場心理は微妙です。FRB(連邦準備制度)の独立性を揺るがすような人事介入が話題となり、投資家は金融政策の先行きを不安視。金相場が強含むなど、安全資産への逃避の兆しも見られます。
さらにドル高やAIブームといった「米国成長を支える短期的な追い風」も永続するわけではありません。他国も半導体やエネルギーに巨額投資を行い、産業補助金や資源保護をテコに国家主導の競争を仕掛けています。結果として、世界経済は「自由競争」というより「国家VS国家のパワーゲーム」に近づきつつあるのです。
米国が「強いまま」でい続けるのは容易ではなく、その足元は揺らいでいるように見えます。
こうした潮流を前に、日本のビジネスパーソンや投資家はどんな視点を持てばよいでしょうか。
MAGAnomicsを米国だけの特殊な経済政策と受け取るのは正確な理解ではありません。関税強化、移民制限、規制緩和、減税といった組み合わせが、雇用や投資に複雑な影響を与え、世界の経済秩序に大きな波紋を広げています。そしてその保護主義の波は、欧州、中国、インド、中南米へと広がり、世界全体の「グローバリゼーションの揺り戻し」を象徴する動きとなっています。
保護主義の再来というグローバル・トレンドにどのように向き合うべきか? 企業はもちろん、個人としても備える必要がありそうです。
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