米商務省が6月16日に発表した統計によると、2026年5月の住宅着工件数は年率換算117.7万戸となり、前月から15.4%減少しました。前年比でも8.7%のマイナスとなり、2020年5月以来の低水準です。市場予想(約143万戸)を大きく下回る結果となったことから、米住宅市場の先行きに対する警戒感が改めて広がっています。
内訳を見ると、一戸建て住宅の着工件数は88.2万戸で前月比1.9%減にとどまった一方、5戸以上の集合住宅は28.4万戸まで落ち込み、前月比4割超の急減で全体の減少を主導しました。
ただし、減少幅の解釈には慎重さも求められます。落ち込みを主導した集合住宅はもともと月次の振れが大きい指標であり、同時に発表された建設許可件数は年率141.3万戸(前月比0.7%減)とほぼ横ばいでした。許可は将来の着工を映す先行指標であり、これが大きく崩れていない点は、今回の急減が一過性の振れなのか構造的な失速なのかを見極めるうえで重要です。着工統計はもともと月ごとのブレが大きく、前年比マイナスや一戸建ての小幅減も統計的な誤差の範囲に収まる規模であり、単月の数字だけで基調を判断するのは禁物と言えます。
もっとも、住宅会社の慎重姿勢が強まっていること自体は、別の指標からも裏付けられます。全米住宅建設業協会(NAHB)が6月に公表した住宅市場指数(HMI)は35まで低下し、14か月連続で40を下回る低迷が続いています。調査では価格引き下げを実施した住宅会社の割合が35%(前月は32%)に達しており、住宅ローン金利の高止まりや建築コスト上昇が住宅会社の様子見姿勢を強めていることがうかがえます。
金融環境はむしろ厳しさを増す方向にあります。30年固定住宅ローン金利は足元で6.5%前後、10年国債利回りも4.5%前後で推移していますが、6月16〜17日のFOMCで連邦準備制度理事会(FRB)は金利を据え置く一方、年内の利上げの可能性を示唆しました。インフレ率が5月に前年比4.2%と2023年以来の高水準に達するなか、FOMC参加者の約半数が2026年中に少なくとも1回の利上げを見込んでおり、市場は10月までの利上げをほぼ織り込んでいます。資金調達環境は「高止まり」というより「高止まりに上振れリスクが加わる」局面に入りつつあり、住宅会社にとって採算確保のハードルは一段と高まっています。さらに、木材や鉄鋼など建材価格の上昇、人手不足、許認可や規制に伴うコスト負担も重なります。NAHBが6月に公表した別の調査では、規制や税金、各種手数料が平均的な新築住宅価格の26.4%、13万ドル超を占めるとの試算も示されています。
もっとも、今回の着工減少をそのまま住宅価格下落のシグナルと受け取るのも早計です。
足元の住宅価格は、すでに減速局面に入っています。S&Pケースシラー住宅価格指数の最新値(3月)は前年比0.66%の上昇にとどまり、14か月連続で伸びが鈍化、2023年6月以来の低い伸び率となりました。前月比では0.2%下落と8か月ぶりのマイナスに転じ、インフレ調整後の実質ベースでは前年比マイナス圏に沈んでいます。主要都市の半数超がすでに前年割れとなっており、価格上昇の勢いは明確に失われつつあります。
ここで重要なのは、価格が「底堅い」かどうかではなく、長引く供給不足がこの先の価格下落に対する「床」として働く可能性です。米国では長年にわたる住宅供給不足が依然として解消されておらず、中古住宅在庫は4.5か月分と、6か月とされる需給均衡の目安に比べてなお低い水準にあります(ここ1年は緩やかに積み上がる方向にはあります)。住宅会社の弱気姿勢によって新規供給がさらに抑制されれば、価格が大きく崩れる前に下支えが働きやすくなる構図です。
実際、住宅市場には需要回復の兆しも見られます。全米不動産協会(NAR)が発表した5月の中古住宅成約指数は前月比3.8%上昇し、前年比でも4.8%増と、北東部・中西部・南部・西部の全4地域でそろって増加しました。中古住宅販売そのものも5月は前月比3.2%増と昨年12月以来の高水準です。住宅ローン金利が大幅に低下したわけではないにもかかわらず、一部の購入希望者は市場へ戻り始めており、NARは「6%超の金利を新常態として受け入れた買い手の動き」と評しています。
つまり現在の米住宅市場は、「需要が弱い」のではなく、「供給がそれ以上に弱い」状態に近いと言えるでしょう。短期的には住宅建設関連企業の業績や景気見通しに逆風となる一方で、中長期的には住宅価格や家賃が大きく崩れるのを防ぐ下支え要因となる可能性があります。住宅市場の先行きを占ううえでは、価格や金利だけでなく、今後の住宅供給動向にも引き続き注目が必要です。
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