【この記事のポイント(Insights)】
米下院で与党・共和党は、今後10年間にわたる大規模な財政改革の一環として、4.5兆ドルの減税を含む予算案の青写真を発表しました。今回の予算案は、トライフェクタ状態(大統領、上院、下院すべてで共和党が多数派を占める状況)の中で、今後の米国財務構造の根幹にかかわる政策として注目されています。本記事では、その概要や背景、具体的な内容、そして今後の影響について詳しく解説いたします。
今回、下院で発表された予算案の青写真は、単なる数値上の調整にとどまらず、米国の財務構造全体に対して抜本的な変革を試みるものです。予算案には、4.5兆ドルの減税措置と、連邦債務上限の4兆ドル引き上げが盛り込まれており、これにより米国は今後の政府支出の枠組みを大幅に見直す方針を示しています。
この予算案が「前例のない」と評されるのは、政府の規模縮小や無駄の排除を掲げる共和党の理念がかつてないほどに色濃く反映されているからです。米国財政は慢性的な債務超過状態にあり、2023年8月には三大格付会社のうち2社からの格下げされ、唯一最上位格付けを維持しているムーディーズからも2024年9月に格下げ警告されています。財政健全化に向け、経済の立て直しと歳入歳出構造の見直しは急務です。そんななか誕生した現政権は、大統領、上院、下院すべてを共和党が独占する状況(トライフェクタ)にあります。各種提案を議会通過させやすいため、今がチャンスと思い切った予算案の公表に至ったのでしょう。
増税に関する話題が目立つ日本とは対照的であるため、「減税」という言葉を羨ましく感じる読者もいるかもしれませんね。日本人のみならず、今回の予算案は米国外の人々からも大きな関心を集めています。
ただし、多くの報道が示す4.5兆ドルという数字は、新たに税率をさらに引き下げるという意味ではありません。この数字が示しているのは、第一次トランプ政権が2017年に成立させた減税措置を、今後10年間延長した場合に失われる税収の規模の試算です。
この減税措置、通称「トランプ減税」は、法人税の大幅な引き下げをはじめとし、一部個人向けの税制優遇措置も含まれております。企業や高所得者層が特に恩恵を受けやすいこの減税策は、すでに大部分が延長措置として継続されている状況にあります。
つまり、税負担が今よりも軽減されるのではなく、トランプ減税が期限切れになると税負担が増すところを、延長して10年間そのままにしておくよという意味でしかないのです。
また、予算案では追加的な減税策についても言及はされているものの、具体的な数値目標や詳細な政策内容は明記されていません。国民の大多数や中小企業などの税負担感にどのような影響が出るかは、今後の議論次第なのです。
減税と並ぶ予算案のもう一つの大きな柱は、大規模な歳出削減策です。特に注目されるのは、メディケイド(低所得者向け医療保険)やフードスタンプ(SNAP)などの公的扶助プログラムに対する支出抑制策です。これらのプログラムにおいて、政府が無駄遣いと考える部分を徹底的に削減することが示唆されており、低所得層の負担はおそらく大きくなるでしょう。
一方で、高齢者向けの社会保障給付、例えばソーシャルセキュリティやメディケアに関しては、削減対象から除外されると明言されています。これは、共和党支持基盤の厚い層の負担増や政治的反発を避ける意図があるとみられています。
また、今回の予算案では、イーロン・マスク氏が率いる新設の政府効率化省(Department of Government Efficiency、略称DOGE)の存在が注目されています。DOGEは、政府全体の非効率な支出を徹底的に洗い出し、重複しているプログラムや無駄な支出を削減することを目標として設立されました。シリコンバレーの最新技術やデジタル監査の手法を活用し、各連邦機関に「DOGEエージェント」を配置することで、迅速かつ徹底的に不正や非効率な支出を検証する役割を担っています。実際、DOGEは既に一部の機関において、数十億ドルに上る不正支出を指摘しており、今後の歳出削減策の実効性向上に大きく寄与すると期待されています。
また、予算案では、エネルギー、教育、農業、交通といった各専門分野の委員会に対しても具体的な削減目標が示され、各分野での効率化が図られる計画となっています。これにより、全体としての歳出削減規模は、今後10年間で2兆ドル以上に達する見込みです。
共和党が掲げるこの野心的な予算案は、米国の財政を健全化し、国際的な金融市場にも大きな影響を与える可能性がある一方で、低所得者層への支援削減が社会的な反発を招く懸念もあり、今後の議論と調整が不可欠となるでしょう。実際、民主党からはすでに批判の声が多く上がっています。今後、どのような形で実現されるのか、また国民生活にどのような影響が及ぶのか、注意深く見守る必要があるでしょう。
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