【この記事のポイント(Insights)】
米労働省が発表した2025年3月の消費者物価指数(CPI)は、前月比でマイナス0.1%となり、約5年ぶりのマイナス圏に転じました。前年同月比でも上昇率は2.4%にとどまり、市場予想を下回る結果となっています。特にガソリン価格の下落が大きく寄与しており、前月比で6.3%の下落となりました。原油価格の軟化や世界経済の成長減速が背景にあるとみられます。また、中古車価格も前月比で0.7%下落し、供給の正常化と需要の一服感が影響していると分析されています。一方で、食品価格は引き続き上昇傾向にあり、卵など一部品目では5%以上の上昇が見られました。インフレの鈍化は一部にとどまり、生活必需品では依然として物価上昇が続いている状況です。
市場関係者の間では、「予想外の減速傾向」との声が広がっています。コアCPIも前月比0.1%の上昇と予想を下回り、前年比では2.8%と昨年から着実に鈍化しています。経済アナリストの一部は、需要の減退やエネルギー価格の調整が主因であり、インフレ率のさらなる低下は今後も続く可能性があると指摘しています。
今回のインフレ鈍化のニュースを受け、金融市場でもさまざまな反応が見られました。S&P500やナスダックなどの主要株価指数は上昇し、インフレ鈍化に伴う利下げ期待が相場を押し上げました。為替市場ではドル安が進行し、米10年債利回りも低下するなど、全体として「FRB(米連邦準備制度理事会)が早期に金融緩和へ踏み切るのではないか」との観測が強まりました。実際、一部の市場では年内に最大1%の利下げがあるとの見通しも浮上しています。しかし、FRB内部では慎重な姿勢も根強く、3月のFOMC議事録によれば、インフレの長期化リスクや関税によるコスト押し上げが政策判断を難しくしているとの指摘がありました。
CPIが発表されるやいなや、ドナルド・トランプ大統領は、自身のSNS「Truth Social」に「INFLATION IS DOWN!!!(インフレが下がった!)」と投稿し、インフレ鈍化を強調しました。さらに、「我々の経済政策が効果を上げている」と述べ、自身の関税政策と結び付ける形でアピールしています。
ただし、専門家のほとんどは「この鈍化が持続的なものかはまだ見極めが必要」との見方を示しており、安易な楽観視は避けるべきと警鐘を鳴らしています。特に懸念されるのが関税の影響です。トランプ大統領は、就任以来、大規模な関税強化を実施しており、3月下旬にはさらなる追加関税計画を発表しました。多くは延期となったものの、中国からの輸入品への追加関税は実行され、145%という超高関税に達しています。この関税が物価の上昇圧力となるのはほぼ確実です。過去にも、関税導入から数か月遅れて消費者物価に影響が出るケースがあり、今回も夏以降にその影響が本格化する可能性があります。
インフレ率の鈍化は、短期的にはポジティブな材料として受け止められていますが、その背景にはエネルギー価格の一時的な調整や耐久財の値下がりといった特殊要因が含まれています。加えて、関税政策によるコストの上昇リスクや、今後の地政学的な不確実性を踏まえると、インフレの行方は依然として予断を許さない状況です。FRBの金融政策や、トランプ政権の通商戦略がどのようにかみ合うのか、今後の展開を慎重に見守る必要があります。市場にとっては、「鈍化した今」よりも、「再加速するかもしれない次の局面」こそが真の焦点となりそうです。
注目記事
なぜ、こんなにも多くのお客様にご支持を頂いているのか(その1)
なぜ、こんなにも多くのお客様にご支持を頂いているのか(その2)