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無効になるのはトランプ関税だけとは限らない? 次に法的妥当性が問わ得る大統領令とは

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2026.03.03

【この記事のポイント(Insights)】

  • 米最高裁がトランプ関税を無効に。関税そのものではなく根拠法の限界を否定。 
  • 巨大政策には明確な議会授権が必要という姿勢が定着。 
  • 出生地主義制限やトランスジェンダー軍人制限など、他の大統領令も同じ法理で審査対象になり得る。 

 

世界を混乱させてきたトランプ関税がまたしても大きく揺れています。2026年2月、米連邦最高裁が一連の関税措置を無効と判断したのです。ともない、関税がどのように設定され直すのか、すでに徴収されている関税はどのように還付されるのかなど、新たな問題が浮上しています。

そうした問題については、すでに多くのメディアや専門家が解説しているところですので、本メディアでは趣向を変えた分析を行います。テーマは、関税の次に覆され得る大統領令は何か。まず今回の判決の法的根拠を整理しつつ、他の大統領令が今後同様の司法審査に直面する可能性を法理的な観点で考察します。

 関税そのものではなく、根拠となる法の効力解釈が争点に 

まず確認しておきたいのは、最高裁が「関税そのもの」を否定したわけではないという点です。

問題になったのは、トランプ政権が関税を課す際に使った法律です。政権は「国際緊急経済権限法(IEEPA)」という法律を根拠に関税を導入しました。この法律は本来、国家の緊急事態に対応するために、外国との取引や資産移動を制限できるようにするものです。

しかし最高裁は、「この法律には関税を課すとは書いていない」と判断しました。関税は、単なる貿易政策ではなく「税」でもあります。そして米国憲法では、税を決める権限は原則として議会にあります。したがって、「輸入を規制できる」と書いてあるからといって、「自由に関税を課してよい」とまでは言えないというのが最高裁の立場でした。

つまり今回の判決は、「関税が悪い」「トランプが違憲行為をした」という話ではなく、「その法律はそこまで広い権限を与えていない」という「法律の解釈」の問題だったのです。

 最高裁が重視するMQD(重要問題の原則) 

近年の米最高裁は、「大きな政策変更を、あいまいな法律の文言から読み取ってよいのか」という点に厳しい姿勢を示しています。例えば、バイデン政権時代にも、環境規制や学生ローンの大規模免除といった事例について「それほど大きな政策なら、議会がはっきり認めていなければならない」と判断しました。

これを専門的には「MQD:major questions doctrine(重要問題の原則)」と呼びます。要するに、経済や社会に大きな影響を与える決定は、はっきりした法律の裏付けが必要だという考え方です。今回の関税も、物価や企業活動、国家財政に直結する巨大な政策でした。そのため、「本当にその法律でよいのか」が厳しく問われたのです。もっとも、今回の判決はMQDだけを根拠にしたものではなく、あくまで条文解釈が中心だったことを補足しておきます。

一度否定されたトランプ関税ですが、大統領はもう関税を課せないのかといえば、そうではありません。米国には通商法122条、232条、301条など、関税を課すことを明示的に認めている法律が複数あります。実際、最高裁判決後、政権は別の法律に基づく一時的関税へと移行しました。

今回否定されたのは、「IEEPAという緊急法を、一般的な関税の根拠にすること」だけです。つまり、関税政策の方向性そのものではなく、「どの法律を使うか」が問題だったわけです。

 次に争われる可能性のある大統領令 

では、関税以外の大統領令はどうでしょうか。ここでは、政治的な予測ではなく、法理的な観点から整理します。判断のポイントは大きく3つです。 

  1. その措置を明確に認める法律があるか 
  2. 経済や社会への影響が極めて大きいか 
  3. 憲法上の個人の権利を直接侵害していないか 

 この3つの観点で考えたとき、トランプによる以下の大統領令は、その有効性について司法で争われる可能性があります。 

 

1 出生地主義制限

いわゆる「出生地主義」を制限する大統領令は、米国憲法第14修正と直接関係します。

ここでは、法律の解釈というよりも、憲法の文言そのものが問題になります。そのため、最高裁が踏み込んだ判断をする可能性は比較的高いと見られます。

今回の関税事件のような「法律の読み方」の問題ではなく、「憲法の意味」を問う争点だからです。

 

2 トランスジェンダー軍人制限

軍務における性自認制限をめぐる問題は、平等保護の原則との関係で争われています。

もっとも、軍事分野では司法は慎重になる傾向があります。軍の運営にどこまで裁判所が介入するのかは微妙な問題です。

このケースは、「法律の授権があるか」というよりも、「個人の権利を不当に制限していないか」が中心になります。

 

3 特定法律事務所への制裁命令

特定の法律事務所を政府契約から排除するような措置は、言論の自由や適正手続との関係で問題になります。

もし「政府に批判的だから不利益を与える」という構図であれば、憲法上の権利侵害として厳しく審査される可能性があります。

このタイプは、関税のような構造論ではなく、「権利侵害型」の争点です。

 

4 通商法122条による関税

122条は明示的に一定期間の関税を認めています。ただし150日という期限があり、長期化する場合は議会の関与が前提となります。

ただし、本来一時的措置であるはずの制度を事実上恒常化させた場合には、再び法的な争点になる可能性は否定できません。

 ブレーキとして正しく機能する三権分立 

今回の最高裁判決は、トランプ関税の是非を決めたのではありません。問われたのは、「その決定を誰が、どの法律に基づいて行うのか」という統治の原則です。大統領の権限が弱まったというよりも、「法律の裏付けがより厳しく求められるようになった」と理解するのが適切でしょう。

今後、他の大統領令が覆されるかどうかは、 

  • 明確な法律根拠があるか 
  • 影響が巨大すぎないか 
  • 個人の憲法上の権利を侵害していないか 

という観点で判断されます。

関税の混乱は続くかもしれません。しかし、その背後では、米国の三権分立が機能しているという事実もまた見逃せません。次に揺れるのはどの政策か。それを予測する鍵は、政治情勢ではなく、「条文に何が書いてあるか」にあります。

 

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