【この記事のポイント(Insights)】
大統領選直前の2024年10月、港湾、医療、製造の3業界で大規模なストライキが連続的に発生した。
いずれも比較的早期に解決したため、緩やかに介入するというバイデン政権の対応は及第点という見方もあったが、労働者はそう思わなかったのかもしれない。
民主党の支持基盤であった労働者の多くが、今回の選挙で同党を見放した。一連のストライキは、労働者の民主党離れの現れだったのかもしれない。
混戦が予想されたものの、蓋を開けてみるとトランプ氏の圧勝で終わった米国大統領選。実は投票直前に当たる2024年10月、選挙結果を示唆するような現象が発生していました。その現象とは、3つの大規模なストライキ。国際港湾労働者協会(ILA)、カイザーパーマネンテの医療従事者、そしてボーイングの労働者が、大統領選にタイミングを合わせたかのように連続してストライキを起こしたのです。
本記事では、これらのストライキの顛末と、そこから読み取れる有権者たちの心情を紹介します。
国際港湾労働者協会(ILA)は、アメリカの港湾労働者を代表する組織で、2024年10月1日に全国規模でのストライキを決行しました。このストライキの背景には、労働条件の改善、賃金引き上げ、そして自動化(省人化)の影響による雇用への懸念がありました。ストライキは1週間続き、港湾での貨物の取り扱いが大幅に停滞し、サプライチェーンに深刻な影響を与えました。
今回のストライキでは約2万人が参加。ILAによる大規模なストライキは1977年以来47年ぶりであり、今回のストライキは過去数十年で最大規模で、主要な港での業務が完全に停止する事態となりました。これに対し、政府は迅速な介入を行い、交渉のテーブルに企業側を着かせることで、合意に向けた道筋をつけました。10月3日には労働者側の要求の一部が受け入れられる形でストライキが終了しましたが、短期間であっても物流が停滞した影響は大きく、経済全体にも波及しました。
ILAと入れ替わるかのように10月4日にストライキをはじめたのがカイザーパーマネンテの医療従事者です。カイザーパーマネンテは、アメリカ合衆国最大の健康維持機構(HMO)であり、医療保険者、医療提供者、病院などからなる組織です。約7万5千人の医療従事者たちが、労働環境の過酷さと賃金の低さ、そして患者ケアの質を巡る不満を訴えストライキに参加しました。これは同組織にとって史上最大規模のストライキであり、全国の医療サービスに広範な影響を与えました。
ストライキ期間中、多くの病院やクリニックが通常の医療サービスを提供できず、患者への影響が懸念されました。特に緊急医療を必要とする患者への対応が遅れたことから、政府が介入し、双方の交渉を促進しました。そのかいあってか10月7日には、労働者側の要求の一部である賃金引き上げと労働環境の改善に向けた約束が取り付けられ、ストライキは早期に終結しました。とはいえ、医療というエッセンシャルな領域だけに、国民の不安を招いた側面は否めません。
最後に紹介するのが、解決まで最も時間がかかった航空機製造大手のボーイングでの労働者ストライキです。労働者たちは、新たな契約における退職金や健康保険の削減案に強く反発し、9月13日にストライキを開始しました。ボーイングはアメリカの製造業全体を見渡しても大きな存在感を放つ企業であるため、このストライキは産業界全体に波紋を広げました。
約3万人の労働者が参加したこのストライキは2週間にわたり続き、航空機の生産が大幅に遅延。特に国際線の需要が回復しつつある中での生産停止は、航空業界全体にとって大きな打撃となりました。政府は、経済への悪影響を最小限に抑えるために迅速に介入し、労使間での妥協点を見出す手助けをしましたが、交渉は長期化。労働者たちは退職金の削減を避ける形で新しい契約を締結し、ストライキが収束したのは10月23日でした。
ただし、ボーイングでは過去にも労働者によるストライキが発生しており、特に2008年のストライキでは約2万7,000人が参加し、約8週間にわたり生産が停止されました。これと比較すると、今回のストライキは特別長期化したとは言えません。
これら3つの大規模なストライキは、いずれも比較的短期間で収束したことから、現政権の対応は及第点ではと評価されていました。しかし今思えば、ストライキが行われた時点で政権への不満はピークを超えていたのかもしれません。
民主党はもともと労働者の待遇改善や機会の平等に熱心で、労働者から支持される政党でした。しかし今回の大統領選では、労働者からの支持を著しく落としてしまったという分析結果が明らかになっています。
大統領選前という注目の集まるタイミングにストライキが頻発したのは、このままでは支持し続けられないという労働者たちからの最後の訴えだったのかもしれません。しかし、政権が選んだのは控えめな介入による軟着陸でした。一定の待遇改善は約束されたものの、物価上昇率を考えれば妥当な範囲でしかなく、労働者の勝利とまでは言い切れない結果に終わりました。この采配に、民主党はもはや自分たちの味方ではないと見切りを付けた労働者もいたのではないでしょうか? ほころびは選挙前から現れていたのかもしれません。
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