トランプ政権が、希少資源レアアースをめぐる供給網の再構築に本格的に動き出しました。11月上旬、トランプ大統領は中央アジア5カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)の首脳をホワイトハウスに招き、米国主導の鉱物供給連携について協議しました。米国はこれらの国々を「対中依存を分散するサプライチェーン拠点」と位置づけ、資源調達と精製投資の両面で支援を強化する方針を明確にしています。
今回の会談の背景には、ここ1カ月の米中間の緊張と市場の揺れがあります。10月9日、中国政府がレアアース輸出管理を強化し、ホルミウムやエルビウムなど5つの新元素を規制対象に追加。半導体や軍事用途向け輸出への審査を厳格化したことで、供給不安が一気に広がりました。これに対抗する形で、トランプ政権は対中輸入品への関税を大幅に引き上げる方針を示したことで、貿易戦争の再燃懸念が強まったのです。一連の発表を受け、米MP Materialsや豪Lynas Rare Earthsなどの関連株は10%前後上昇。希少金属ETF「REMX」も年初来高値を更新しました。
しかし10月26日、ASEANサミットの場で米中経済高官が協議し、双方が「関税引き上げおよびレアアース輸出規制を1年間凍結する」ことで予備合意。さらに10月30日には、トランプ大統領と習近平国家主席の直接会談で正式合意に至ったと報じられました。この報道をきっかけに、供給不安が後退し、関連銘柄は一転して利益確定売りに押されました。Lynasは10月下旬にかけて4営業日連続で下落し、MP Materialsも8〜10%の調整に入るなど、わずか数週間の間に「強化 → 緩和 → 分散」と推移。政策ヘッドラインの入れ替わりにより、市場のボラティリティは一段と高まっています。
そんななかで行われた中央アジア5カ国との協議には、レアアース問題の解決の糸口としての期待が寄せられています。
中国のレアアース支配は、採掘量だけでなく、精製や磁石化といった工程を含めると世界シェアの約9割に達しています。今回の一連の動きは、米国がこの構造を抜本的に変えようとしていることを示しています。トランプ政権は資源確保を経済政策ではなく「安全保障政策」として位置づけ、政府系ファンドや国防総省が直接投資する“エクイティ型支援”へと舵を切り始めました。単に「資源を購入する」段階から、「資源地に参入し、技術・資本・規制をパッケージで提供する」段階に移行しているのです。
その実験場として注目されているのが中央アジアです。この地域は、旧ソ連時代からウランや希土類の埋蔵が確認されており、地政学的にもロシアと中国の間に位置する要衝。トランプ政権はC5+1(米国と中央アジア5カ国)枠組みを再稼働させ、米企業の採掘・精製プロジェクトを誘致しています。これにより、供給の地理的分散を進めつつ「友好圏経済圏」の形成を狙っているのです。
投資家にとっても、このテーマは短期と中期で異なる戦略が求められます。短期的には、10月9日のような規制強化報道で関連銘柄が上昇し、10月30日のような緩和報道で反落する「イベントドリブン型」の値動きが続くと見られます。一方、中期的には、鉱石よりも分離・磁石化プロセスを担う企業に資金が集まる可能性が高いとの見立てもあります。Lynasの重希土分離施設拡張計画や、米国内で進む磁石製造投資は、来年以降の注目テーマとなるでしょう。
ただし、今回の米中合意は「1年間の停止」であり「撤回」ではありません。来年以降、中国が再び輸出管理を再開する可能性は十分に残っています。市場が一時的な安堵ムードに包まれている今こそ、供給リスクそのものが解消していない点を冷静に見ておく必要があります。トランプ政権が進める“資源外交”は、まだ序章に過ぎません。米中、そして中央アジアを巻き込むレアアース覇権の地図は、これから描かれ始めたばかりです。
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