【この記事のポイント(Insights)】
2022年12月9日、中国とサウジアラビアが人民元によるクロスボーダー取引を行ったことが発表されました。この取引は、世界経済に大きな影響を与える可能性を秘めています。
サウジアラビアは御存知の通り、世界最大級の産油国の1つです。そのサウジアラビアにとって中国は最大の石油輸出相手。そんな2カ国の間で人民元によるクロスボーダー取引、つまり米ドルを介さない取引が行われたわけです。石油取引はまだドル立てで行われているものの、年が明けて2023年1月17日にサウジ財務相がドル以外の決済通貨での貿易方法を議論することに対しサウジはオープンであるという趣旨の発言をしており、人民元による石油取引が行われる日が近いのではと予想されています。
アメリカの一部の経済学者たちは、この取引が実現したら米ドルの地位が脅かされると考えています。どのようなメカニズムで、米ドルに影響が及ぶのでしょうか?
理由を考えるうえで最も重要な観点は、米ドルの地位を支えているモノは何なのかということです。米ドルにかぎらず、各国通貨の多くは金(ゴールド)と固定相場で交換できることで価値が裏付けられていました。しかし、第二次世界大戦を経て各国政府が消耗し、十分な金を確保できなくなったことで金本位制の維持が難しくなりました。
そこで作られた制度が金ドル本位制(ブレトンウッズ体制)が、米ドルの地位を確固たるものにしました。金ドル本位制とは、ゴールドと米ドル、米ドルと各国通貨の相場が固定するものです。ゴールドと各国通貨の相場はそれ以前と変わらず固定されているものの、各国が金を直接保有する必要がなくなり、米ドルを持てば良くなりました。同時に、米ドルは世界で唯一、金と交換できる通貨という地位を得たのです。それまで金で行われていた国際取引も、米ドルで行われるようになりました。
その後、ベトナム戦争による軍事費拡大などの影響でアメリカ財政が悪化、金が国外流出したことで制度維持が難しくなりました。1971年、ニクソン大統領が金とドルの交換停止を一方的に発表(ニクソン・ショック)。本来ならここで米ドルの地位が大きく揺らぐところですが、金以上に重要な価値を持つあるモノのおかげでそれは回避されました。
そのあるモノこそ、石油です。当時すでに世界中のあらゆる国が、生活および産業を支えるエネルギーとして石油を利用していました。先進国の多くは産油国ではないため、国際取引によって輸入するしかありません。前述の通り、米ドルは国際取引の決済貨幣として定着していました。こうして、米ドルは重要性と価値の低下を免れたのです。
こうした変遷を踏まえると、石油取引の決済貨幣である事実は、米ドルの地位を支える重要な要素であるのは間違いありません。アメリカの専門家たちが、人民元による石油決済を警戒する理由はここにあります。
第二次世界大戦後とは異なり、中国は経済面でも大国と呼ぶにふさわしい規模に成長しました。多くの国にとって中国は最大の貿易相手国で、それらの国はすでに一定量の人民元を保有しています。人民元による石油取引が解禁されれば、彼らの一部も人民元決済に参加するでしょうし、米ドルを手放し人民元に持ち替えようとすることも十分にあり得ます。一部の地域では人民元が基軸通貨的に扱われ、米ドルとの二極化が懸念されています。
ただし、これは米国が無策だった場合のシナリオです。ニクソン・ショック時も、アメリカは苦境の中で米ドルの地位を守り切ることに成功しました。中国の成長や産油国との接近はずっと以前から分かっていた話ですから、何らか対策を用意していると考えるのが自然でしょう。
いずれにせよ、人民元による石油取引の解禁が世界経済にとって重要な局面となるのは間違いありません。その日は着実に近づいています。
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