2025年7月、トランプ大統領による対日関税に関する強硬的な発言が相次ぎ、日本政府と経済界に緊張が走っています。現職復帰後初の夏を迎える中で、米国と主要貿易国との間で進む通商交渉は正念場を迎えており、日本はその矢面に立たされている格好です。
7月1日、トランプ大統領はフロリダからの帰路に専用機内で記者団に対し、「日本との取引がまとまるとは思えない。非常に疑わしい」「彼らは非常に甘やかされている」と発言しました。さらに、「7月9日までに合意が得られなければ、日本製品には30%あるいは35%の関税を課す可能性がある」と踏み込んだ発言も行いました。
この発言に先立つ6月30日には、自身のSNS『トゥルース・ソーシャル』にて、「日本は我々のコメを受け入れようとせず、自国でも不足しているにもかかわらず奇妙な対応をしている」と投稿しました。日本を「甘やかされてきた国」と名指しする一方で、7月2日には「日本に書簡を送るだけで終わりだ」と語り、交渉期限の延長を否定するなど、3日連続で対日批判を強めたかたちです。
他国に対しても関税をちらつかせる姿勢を見せていますが、今回の対日発言は格段に強い調子が目立ちます。事実、インドとの交渉については「合意成立に近づいている」と前向きなコメントを残しており、ベトナムとはすでに20%関税で合意。中国や英国とも段階的な妥結を進める中、日本だけが「孤立しつつある」との見方も浮上しています。
この一連の発言に対し、日本政府は公式なコメントを控えつつも、「日米双方にとってウィンウィンの合意を目指す」との基本方針を崩していません。青木官房副長官や林外相は「コメントを差し控える」としたうえで、交渉継続の姿勢を強調しています。石破首相も、「日本は米国にとって最大の投資国であり、同盟国としての特別な関係に立脚した対話が必要」と述べ、冷静な対応を貫いています。
一方、経済界では危機感が広がっています。トヨタ自動車は、米国製車両を日本国内で販売するという異例の提案を打ち出し、自主的な歩み寄りを模索しています。政府・業界関係者の間では、「米国の消費者にとっても関税はブーメランになり得る」との認識が広がる一方で、「現実に発動されれば日本経済への影響は甚大」として、最悪の事態を想定した対応も進めているようです。
米国内でも関税強化に対する慎重論は根強く、自動車業界団体は「価格上昇と雇用への悪影響」を警告しています。議会からも「同盟国への関税は戦略的誤り」との声が上がっており、実際にミシガン州では自動車工場の一時閉鎖やレイオフの事例も報じられています。関税政策の副作用はすでに現実のものとなりつつあります。
では、今回のトランプ発言は単なるブラフなのでしょうか、それとも本気なのでしょうか。判断は簡単ではありません。トランプ大統領は2025年4月にも、突如として乗用車に25%の追加関税を発動しており、「口先だけではない」という実績があります。一方で、過去の発言を振り返ると、その多くが交渉を有利に進めるための“恫喝的レトリック”であったことも事実です。
今回の35%関税発言も、交渉期限である7月9日を前に、日本から譲歩を引き出すための圧力という見方は根強いです。しかし、日本政府が表立って反発することなく、経済界が緊急対応を進めているように、「真に受ける」ことも、「無視する」ことも、どちらもリスクであると言えます。交渉期限まであとわずか。日本は再び、難解な“トランプ・ゲーム”に強制参加させられています。
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