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トランプ政権の移民政策に大反発の声。移民抑制は長期的に得?損?

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2025.12.24

【この記事のポイント(Insights)】

  • トランプ政権が進める移民抑制策に対し、民主党系州を中心に全米で反発が広がっている。
  • 高度人材の流入制限や不法移民の摘発強化は、主要産業の人手不足とコスト高を招き成長を鈍化させると懸念されている。
  • 短期的には政治的アピールとして機能しても、中期的には制度混乱や経済の競争力低下といった代償が避けられない。

2025年12月、米国で相次いだ2つの移民政策関連のニュースが注目を集めました。1つは、高度技能職向けビザ「H-1B」の申請に対し、1件あたり10万ドルという高額な追加手数料を課す新制度。もう1つは、不法移民への取り締まりを一気に強化するという連邦政府の方針です。

どちらの政策も、一見すると“厳格な秩序回復”を目指した力強い施策のように見えます。しかし、これらがもたらすのは単なる政治的アピールにとどまりません。今、米国の経済や産業、そして制度運営そのものにまで大きな副作用が波及しつつあります。

この記事では、 H-1B手数料訴訟と移民摘発強化の動向が経済・産業、政治・司法、金融市場にどのように影響するのかを分析しながら、「移民を締めれば締めるほど、なぜ米国経済は苦しくなるのか?」という問いに迫ります。

移民締め付け強化に対する2つの大きな反発

2025年12月、トランプ政権が推進する移民締め付けに対し、米国各所から大反発の声が上がりました。特に注目すべきなのが以下の2つのニュースです。

H-1Bビザに10万ドルの手数料。20州が提訴

12月12日、トランプ政権はH-1Bビザの新規申請に対し、10万ドルの追加手数料を課す制度を発表しました。これまで数千ドルだった申請コストが一気に桁違いに膨らむ形です。

この措置に対し、カリフォルニア州を筆頭に、ニューヨーク、マサチューセッツ、イリノイなど民主党系を中心とする20州が「違憲かつ行政権限の逸脱」として提訴。さらに、大学、医療機関、商工会議所なども反発の声を上げました。

H-1Bビザは、ITエンジニアや医療従事者、大学教員といった高度人材を海外から確保するための制度です。申請者の中には、全米の学校や病院で働く外国籍の専門職も多く含まれています。このため、教育・医療現場では「必要な人材が確保できず、現場が崩壊しかねない」との危機感が広がっています。

不法移民の取り締まりで、司法と連邦が激突

12月15日には、もう1つのニュースが波紋を広げました。連邦政府が全米で進める移民取り締まりの強化に対し、地方裁判所や州政府が次々と反発を表明したのです。

ウィスコンシン州では、移民の逮捕を妨害したとして判事が起訴される異例の事態に発展。ニューヨーク州が移民に商用運転免許を発給したことに対し、連邦政府が道路予算の削減を通告するなど、司法・州・連邦の摩擦が一気に顕在化しました。

これらの動きは、単なる「法の執行」ではなく、制度の根幹に関わる対立を引き起こしています。現場では混乱が広がり、政府の命令と現地の実務がかみ合わない場面も増えています。

労働供給減、賃金上昇が、アメリカの成長をリードする主要産業を直撃。

こうした移民抑制策は、米国の経済にどう影響するのでしょうか?

まず挙げられるのが、労働力供給の急激な減少です。H-1Bの制限により、高度人材の流入が細り、建設・農業・医療などの現場では不法移民の摘発強化により人手不足が深刻化。ホテルやレストランなどのサービス業でも労働力の確保が難しくなっています。

その結果、賃金が上昇し、企業の人件費は増加。これが物価上昇圧力=インフレにつながります。一方で、人手不足により供給能力が制限され、経済成長の足かせに。つまり、成長率は下がり、インフレは進むという、中央銀行にとって最も厄介な「スタグフレーション型」のリスクが高まっているのです。

業界別に見ると、特に影響が大きいのは次の3分野です。

IT(情報技術):シリコンバレーをはじめとするテック業界では、H-1B人材がプロジェクトの中核人材として活躍しており、採用難が長引けば製品開発の遅れや競争力の後退にもつながります。

医療・教育:看護師や専門医、大学教員の多くがH-1B保持者で、地方では彼らがいなければサービスが成り立たないケースも。結果として、地域医療や教育の質の低下を招く可能性があります。

建設・農業・外食:不法移民の摘発強化で、労働集約型の現場では人手が足りず、工期延長や生産中止、価格上昇といった悪循環が起きています。

これらはすべて、米国のインフラや生活基盤に直結する分野。短期的な移民排除の余波が、長期的な経済力の低下につながりかねません。

政治、司法、中央銀行、投資市場にも緊張が波及

こうした移民政策の強化によって負の影響を受けるのは企業だけではありません。

まず、政治面では移民受け入れに寛容な州(いわゆる"青い州")と、連邦政府(トランプ政権)の対立構造が鮮明化。移民政策が「政治の主戦場」となればなるほど、分断化が進み法廷闘争も続出。判事や州職員が摘発されるなど、制度の根幹を揺るがすような事態も起きています。

移民政策は労働供給の逼迫と賃金上昇にもつながるため、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策にも影響します。成長を維持するためには利下げが望ましい一方で、賃金インフレが続けば利下げには慎重にならざるを得ません。

また、移民政策の先行きが見通しにくい中では、企業も人材戦略を柔軟に組めず、外資企業や高度人材が米国を避ける動きも出ています。投資家にとっても、これは成長期待の低下とコスト増リスクという二重のマイナス材料です。

短期的には「ウケ」が良くとも、中期的な代償が大きい移民排除

移民抑制政策は、有権者にとって「分かりやすく、即効性のある解決策」に映ります。しかし実際には上述したような、労働供給の減少、成長率の低下、サービス価格の上昇、政策不確実性の増大といった“代償”が時間差で訪れます。

「移民を締め付ければ締め付けるほど、米国経済は苦しくなる」──。そんな皮肉な現実が、今回の2つのニュースに鮮やかに浮かび上がっています。

 

 

 

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