【この記事のポイント(Insights)】
2023年1月、テキサス州のグレッグ・アボット知事は、州上院の共和党議員が提案している、中国の個人や企業による不動産購入を制限する法案を支持したことが話題を呼びました。
騒動の発端は2018年、中国企業である光輝が子会社を介して州内の土地を大量購入しはじめたことにあります。その後2年の間に買い足した土地も含めると、光輝グループが州内に保有する土地は13万エーカーとも14万エーカーとも言われます。1万エーカーは約4,000万㎡ですから、途方もない広さです。
その後、2019年に光輝の小会社のGH America Energy がこの土地に大規模風力発電所を開発する計画を発表すると、人々の危機感は本格的に強まりました。生活インフラである電力の供給を外国企業に頼ることは大きなリスクであること、近隣住民に多大な騒音被害をもたらす可能性があること、開発にともない自然環境が破壊されること(このエリアには大きな河川が流れており、もともと牧場だった土地も含んでいました)、そして何より米軍基地のすぐ近くに位置することが問題になりました。
近くの米軍基地とは、米国空軍最大のパイロット訓練基地であるラフリン空軍基地のことです。風力発電所の建設予定地の上空は軍事飛行ルートと重なっており、高く、風の流れに大きな影響を及ぼす風車が建つことは好ましくありません。また、軍関係者からは電気や水道などのインフラがストップされるのではと警戒する人もいました。
米軍関係者がここまで警戒する理由は、単に米中関係の緊張からだけではありません。というのも、光輝のオーナーである Sun Guangxin は中国陸軍の元将校だからです。新疆ウイグル自治区最大の不動産王として知られる同氏は、政府や中国共産党との強いつながりを背景にビジネスを成長させ、元陸軍士官を自社の重要な役職に就かせてきました。また、ロシアから輸入した石油とガスを中国国営企業に販売する事業も行っている点も、同氏への警戒心を高める要因になっています。
ウクライナ危機以来、地政学的なリスクへの緊張感はますます高まっています。中国に対する警戒心を高めているのはテキサス州だけではありません。
フロリダ州のロン・デサンティス知事も1月、グレッグ知事に続くように「我々は敵対国による(不動産の)保有を望まない」と発言。さらにバージニア州のグレン・ヤングキン知事も、「危険な外国の組織」が農地を購入するのを防ぐよう同州議員に訴えかけました。
連邦政府高官も同様です。2月3日には、アントニー J. ブリンケン国務長官は、中国訪問の予定を急遽中止。2018年以来5年ぶりとなる国務長官の訪中は実現しませんでした。直接の要因こそ中国気球によるスパイ疑惑だとされていますが、中露関係、台湾情勢、貿易など多くの懸念が判断の下敷きとなっているはずです。
今後、他の州でもテキサス州と似た法案が提案される可能性は大いにあります。国家間の関係性は不動産市場のルールを変え得る。そんなことを実感させられる事例です。
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