【この記事のポイント(Insights)】
2008年のサブプライム・ローン危機を見事に読み切った伝説的投資家マイケル・バーリが、再びマーケットに衝撃を与えています。そんな彼が今、生成AIブームをけん引してきたNVIDIAとPalantirに対し懐疑的な目を向けています。というのも彼のヘッジファンドであるScion Asset Managementが、両銘柄に対する巨額のプットオプション(株価下落で利益を得る権利)を取得していたことが明らかになったのです。
かつて住宅バブルの裏に潜むリスクを見抜いた"ビッグ・ショートの男"が、今なぜAI銘柄に"売り"を仕掛けるのか。この記事では、マイケル・バーリという人物の正体から、今回のポジションの意図、そしてそれが私たち投資家に示唆するものまでを解説します。
マイケル・バーリは、もともと医師としてのキャリアを歩んでいました。しかし、独学で財務諸表分析や価値投資を学び、2000年に自身のヘッジファンド「Scion Asset Management」を設立します。彼が一躍有名になったのは、2005年頃から始めたサブプライム住宅ローン証券のショート戦略です。
当時の米国では「住宅価格は下がらない」という幻想が支配的でしたが、バーリはローン債権の構造を1件ずつ分析し、信用リスクが過小評価されていることを見抜きました。そして、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融商品を使って、その破綻に賭けるポジションを構築。2008年の金融危機が現実となったとき、彼のファンドは巨額のリターンを上げました。
バーリのこの一連の動きは、マイケル・ルイス著『The Big Short』で描かれ、映画化もされました。重要なのは、彼の逆張りが博打や感情的な判断ではなく、綿密なデータ分析と論理的推論に基づいていたという点です。金融業界でも、彼の姿勢は"ロジカルな逆張り"として広く評価されています。
Scion Asset Managementの2025年第3四半期末に提出された13F報告書により、同社がNVIDIAとPalantirに対して巨額のプットオプション(株価下落で利益を得られる権利)を保有していた(おそらく現在も保有し続けている)ことが明らかになりました。期末時点で保有していたのは、以下のポジションです。
特にPalantirへの弱気ポジションはファンド最大の構成銘柄であり、両銘柄合わせてポートフォリオ全体の約80%を占めています。この規模は異例であり、単なるヘッジではなく、明確な"下落予想"と受け止められています。
バーリ本人のX(旧Twitter)投稿では、AI相場に対する懐疑的な姿勢が示唆されています。たとえば「バブルは時に見える。勝つには“プレイしない”ことだ」という投稿では、1983年の映画『ウォー・ゲーム』のセリフを引用しながら、過熱相場への距離感を表明しました。
また、クラウド事業のAI投資成長が鈍化しているデータや、NVIDIAが出資したAI企業が再びNVIDIAのGPUを購入する"循環的な資金構造"を問題視する投稿もありました。これらの発言から、バーリはAIブームの裏に潜む非持続的な仕組みに警鐘を鳴らしていると読み取れます。
バーリが言うように、AI銘柄は加熱しているのでしょうか? まずNVIDIAは、2023年からの生成AI需要の爆発で株価が急騰。2025年11月時点で年初来+54%という驚異的なパフォーマンスを記録しています。時価総額は1兆ドル規模に達し、PER(株価収益率)は50〜60倍超と、市場平均を大きく上回っています。
もう一方のPalantirは、政府とのAI契約や民間向けAIプラットフォームが話題を呼び、2023〜2025年で株価は約+1000%という急騰ぶり。年初来でも+170%以上を記録しています。ただし、実績ベースでのPERは約439倍、1年先予想でも250倍近くに達しており、明らかに"期待先行"の評価です。
こうした状況に対し、バーリは「期待が業績を大きく上回っているとき、市場は脆弱になる」との視点を持っていると考えられます。これは、サブプライム時代に"格付けAAAの債券"に潜むリスクを見抜いた彼の思考と共通します。当時との共通点と相違点を端的にまとめるなら、以下です。
13F報道直後、NVIDIAとPalantirの株価はそれぞれ1日で約-4%、-6〜8%の下落となりました。Palantirに至っては時価総額にして約330億ドルが吹き飛ぶ結果に。
さらに注目を集めたのが、PalantirのCEOアレックス・カープ氏の反応です。彼はCNBCのインタビューで「これは正気の沙汰じゃない。市場操作の可能性すらある」と述べ、バーリの動きを強く批判しました。Palantirは今やAI実装企業の中でも数少ない黒字企業であり、そこに対する"空売り"は不当だと反発しています。
一方、市場全体では「AI株の過熱に対する警鐘」「割高水準への懸念」といった冷静な分析も増えており、投資家の間でも慎重姿勢が広がっています。その一方で「バーリのタイミングは早すぎるのでは」との声もあり、評価は割れています。
バーリの投資哲学は「群集心理に従わず、自分の分析に従う」ことです。彼は常に多数派と距離を置き、データと構造を徹底的に分析する姿勢を貫いてきました。今回の件も、彼の行動を"未来の正解"として鵜呑みにするのではなく、以下のような問いを自分に投げかける“鏡”として捉えるべきでしょう。
過熱する相場と向き合ううえでは、こうした問いを繰り返すことが必要です。マイケル・バーリの行動は、未来を言い当てる予言ではありません。しかし、過去に市場の"見えないリスク"を言い当てた人物が警鐘を鳴らしているという事実には、耳を傾ける価値があります。
本当に危ういのは、AIでも株でもなく、"投資家の過信"かもしれません。熱狂の中にこそ冷静な視点を保つべき──。バーリの行動は、そんなメッセージを我々に投げかけています。
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