【この記事のポイント(Insights)】
2023年11月半ば、アメリカの名門大学と連邦準備銀行からそれぞれ発表された消費者調査に興味深い乖離が見られます。
10日に発表されたミシガン大学の調査によると、アメリカ人の長期インフレ期待はこの月に3.2%に上昇し、2011年以来の最高水準に達しました。これはつまり、インフレ正常化はまだまだ遠いと考えている人が多いことを意味します。
一方、13日にニューヨーク連銀から発表された調査(10月実施)では、消費者はインフレが緩和し続けると考えているという結果が出ました。1年後と5年後のインフレ期待は9月の調査から0.1ポイントずつ下がり、それぞれ3.6%と2.7%になりました。
ミシガン大学の調査は米国消費者はインフレに対し悲観的な考えを持っていると示していますが、ニューヨーク連銀の調査では真逆の楽観的な回答が得られたのです。
インフレ期待の調査結果が割れたことは、FRBの金融政策の調整をより難しくします。インフレ期待は経済行動に大きな影響を与えるからです。影響の例を挙げると以下です。
消費の増減
将来的に物価が上昇すると予想する消費者は、価格が上がる前に財やサービスを購入しようとします。これにより短期的な消費が促進されます。反対に、物価が安定しているときは、消費者は急いでものを買う必要がなくなり、消費が落ち着きます。
賃上げ圧力の上下
インフレが予想される場合、労働者は賃上げ交渉や転職などのアクションを取ります。これにより企業の人件費が増大すると、最終的には価格に転嫁される可能性があります。
投資の変化
インフレ期待は、国債や社債などの固定利回り投資の人気を左右します。名目リターンが年率5%の投資があったとして、インフレ率が年率2%の場合、実質リターンは3%になります。しかし、もし市場の参加者が将来のインフレ率が年率4%になると予想するなら、同じ名目リターン5%の投資の実質リターンは1%に低下します。
つまり、インフレ率が高いほど実質リターンが減少するため、投資の旨味が現象します。そのためインフレ期待が高い場合は、株式やインフレ調整債などに人気が高まる傾向があります。
自己実現的予言
インフレ期待は、自己実現的な予言となり得ます。上で挙げた、高インフレ期待による消費増や賃上げは、それそのものがインフレを加速する材料です。インフレ期待が高いからインフレが進むという、鶏が先か卵が先かのような状況に陥る可能性があるのです。
物価の安定を目指すFRBとしては、自己実現的予言を防ぐ必要があります。そのため長期のインフレ期待が高い場合、インフレを抑えるために金利を引き上げるなどの引き締め政策を採る可能性が高まります。
消費者のインフレに対する見方は時間の経過とともに変化することがあり、また調査方法や時期によっても結果が異なる場合があります。2つの調査に乖離が生じたこと自体は不自然な結果ではありません。
とはいえ、両調査とも実施主体がしっかりしており精度に信頼をおけること、実施時期も比較的近いことを考慮すると、消費者感覚がバラつき始めていることは間違いないでしょう。このバラつきは、消費者行動を読みにくくする、つまりはFRBの金利政策の予想を困難にすることにつながります。果たしてどちらに転ぶことになるのでしょうか?
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